『週刊プレイボーイ』本誌連載中のコラム「衆愚レアリズム宣言!!」より、ジャーナリストの川喜田研氏が“シューグ”な現実と向き合い、世の中を見つめなおす!

*** 安全保障関連法案に反対する大勢の群衆が国会議事堂前を埋め尽くした翌日、NHKの朝のニュース番組『おはよう日本』を見て驚いた!

なんと、国会前はもちろん、前日に日本各地で行なわれたデモについての報道はゼロ。まるで何事もなかったかのように、鮮やかな「完全無視」だったからだ。

もちろん、デモがあった日曜夜7時の『NHKニュース7』では、デモに関する報道もあった。ただし、トップニュースはなぜか「タイの爆弾テロ事件関連」で、その次に「スズキとフォルクスワーゲンの提携解消」、ようやく3番目に「国会前のデモ」である…。

僕はTVのニュース番組、それも「公共放送」であるNHKともなれば、ある程度、ニュースの価値とか重要度に応じて、その日のトップ項目やオーダーを決めるものだと思っていた。

だとすると、今や国政の焦点である「安保法制」に反対する大規模デモよりも「タイのテロ事件」や「自動車メーカーの提携解消」の優先順位が高いというのは、どういうコト?と、少し呆れていたのだが、まさか翌朝のNHKがあのデモを完全無視するとは思ってもみなかったのだ。

ちなみに、その朝は「愛知県のコンビニ立てこもり事件」が「現在進行形」で起きていたので、この事件の速報が優先されたのは、まあ、わからなくもない。

だが、週明け月曜日の朝のニュースというのは、週末に起こった「主な出来事」を扱うのが基本のはず。少なくとも「日曜日の事件はもう終わった話…」という感覚はないはずだ。

現に、デモ翌朝のニュースでは前日と同様に「タイのテロ事件」や「スズキとフォルクスワーゲンの提携解消」がトップ項目として扱われていたのだが、そのまま待っていたらいつの間にか「北海道でヒグマが出没」の話題になってしまい、結局、最後までデモにはひと言も触れずに番組終了!

オイオイ、ちょっと待てよ! あのデモの現場を実際に自分の目で見れば(当然、NHKの記者だってあの場にいたはず?)、あるいは他局のニュースや新聞での空撮映像を見ただけでも8月30日の午後、「安保法制」に抗議するものすごい数の人たちが国会前を埋め尽くしたという、その事実は十分に理解しているはずだ。

それに、他ならぬNHKも前日夜のニュースでは、国会前だけでなく、日本各地で一斉に同じような抗議デモが行なわれ、多くの参加者を集めたことを報じていたはずではないか?

これこそ「偏向報道」の典型!

もちろん、当日のデモに参加した具体的な人数については、警視庁発表の3万人余りから主催者発表の12万人、あるいは延べ人数で35万人…と、いろいろな説があるのも知っている。だが、本質的な部分で言えば、デモの参加者が3万だろうが、10万だろうが、35万だろうが、そんなコトなんかどうでもいい!

ハッキリしているのは、どんなに少なく見積もっても数万人規模の、戦後まれに見る大規模なデモがあの日、国会前を埋め尽くし、時の政権に抗議の声を上げたという事実だ。

海外のメディアですら大きく取り上げたこの事件が「週末の主な出来事」として翌朝のNHKのニュースに取り上げられず、完全に無視されるというのは、誰がどう考えても異常事態。仮にNHKが公正・中立な報道を心がけるというのなら、これこそ「偏向報道」の典型というべきだろう。

あのデモが「ヒグマ出没」や「プロ野球の結果」以下の扱いを受ける理由をNHKの籾井(もみい)会長はどう説明するのだろう。納得のいく回答を求めて、今度はNHKを「包囲」したほうがいいかもなぁ…。

●川喜田 研(かわきた・けん) 1965年生まれ。モータースポーツ、特にF1関連の記事をはじめ、原発問題、TPP、憲法改正、集団的自衛権、沖縄基地問題を本誌で執筆。著書に『さらば、ホンダF1』(集英社)がある