国際コラムニスト・加藤嘉一の本誌連載コラム「逆に教えて!」。今回は…。

***エネルギー資源や食料が豊富で、高齢化とも無縁。非常に高い将来性を持つ東南アジア最大の国家、インドネシアの行く先を現地で探ってきました。

世界各地を旅すると、国によって政府の“悩み”が異なることを実感します。歴史、人口、面積、経済規模、地政学的な状況など、あらゆる要素が違うのですから当然ですが、最近ぼくが訪れた国の中で、特に興味深いと感じたのがインドネシアです。

約2億5千万人(世界第4位)の人口を抱え、赤道にまたがる1万3千以上もの島々からなるインドネシア共和国。人口、面積ともに東南アジア最大のこの国の悩みは、面白いことにあの中国とは真逆のものでした。

インドネシア社会の特徴は、国民の平均年齢が29.2歳と人口構造が若いこと。65歳以上の人口が25%を超える日本、10%を超える中国など高齢化問題を抱える国とは対照的です(余談ですが、日本が経済的に「富んでから老いた」のに対し、「富む前に老い始めた」中国は、より大きなリスクを抱えているといえます)。

インドネシアの悩みはどこにあるかといえば、まずはインフラの脆弱(ぜいじゃく)さです。例えば、交通網が機動的に整備されていない首都のジャカルタでは、ひどい渋滞が常態化しています。近年、高速鉄道などの建設ラッシュが続く中国とは正反対です。

現地の経済アナリストによれば、インドネシア政府は公共投資と対外輸出を増やす政策を進めているとのこと。これまではGDPの約7割を国内消費、つまり内需が占めており、公共投資と輸出は微々たるものでした(逆に、経済成長の過程で投資と輸出に依存しすぎてきた中国は、現在は内需を増やすのに苦労しています)。

こうした悩みを解消する上で最大の課題となっているのが、徴税メカニズムの抜本的改善だといいます。同アナリストによれば、インドネシアでは人口の約7割が“個人事業主”で、まともに所得税を払っていないそうですが、税収を増やさない限り、公共投資の財源は確保できず、インフラ整備もままならないからです。

正反対な中国との“共通点”は?

そんなインドネシアは、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加しています。出資比率は全体の8番目ですが、インドネシアの立場は「投資を受ける側」の主要国のひとつ。大規模に進めたいインフラ整備にAIIBがどうコミットしていくのか注視していきたいと思います。

ジャカルタの街を歩いて感じたのは、インドネシア人の中国に対する警戒心の根深さ。AIIBや南シナ海の問題に加え、ビジネス環境やマネーの流れを支配しようとする裕福な華僑(かきょう)に対するジェラシーもあり、反中感情が起きているようです。投資家たちと話をしても、上海市場の暴落、人民元の国際化、共産党体制の透明性などいろいろと聞かれました。

このように何もかも正反対に見えるインドネシアと中国ですが、共通点は「すべては政治で決まる」―ーつまり、何をやるにしても最後は政治的なコネや立場によって物事が進んでしまうこと。また、腐敗の横行とそれに対する抑止システムの欠如という悩みも共通しています。例えば、ジャカルタの大通りではシートベルト未着用でクルマを止められたドライバーたちが、なんの違和感もなく警官に賄賂(わいろ)を渡し、数秒後には解放される光景を何度も見ました。

一方、インドネシア社会には包容力、多様性という魅力があります。世界最大のムスリム人口を抱えるイスラム国家でありながら、街にはキリスト教の教会や仏教の寺院も立ち並び、住民たちは熱帯地域らしいおおらかさを持っている。ガスやゴムなど天然資源が豊富なこと、食料自給率が高いこと、そして何より若者が圧倒的に多いことなど国家としてのポテンシャルは高いといえます。

それでもインドネシアの将来性に興味が湧かないというなら、その理由を逆に教えて!!

●加藤嘉一(KATO YOSHIKAZU)日本語、中国語、英語でコラムを書く国際コラムニスト。1984年生まれ、静岡県出身。高校卒業後、単身で北京大学へ留学、同大学国際関係学院修士課程修了。2012年8月、約10年間暮らした中国を離れ渡米。ハーバード大学フェロー、ジョンスホプキンス大学高等国際関係大学院客員研究員を経て、この夏から再び北京へ。最新刊『中国民主化研究 紅い皇帝・習近平が2021年に描く夢』(ダイヤモンド社)が発売中。中国のいまと未来を考える「加藤嘉一中国研究会」も活動中!