かつて維新の党のブレーンとして活動していた古賀氏

新党立ち上げが決まった橋下市長。

安倍政権に対して恩を売り、生き残るつもりだと『週刊プレイボーイ』本誌でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は推測する。

***「維新の党」の分裂が決定的となった。8月27日に離党した橋下大阪市長が、10月中旬にも地域政党の「大阪維新の会」を母体とする新しい国政新党を立ち上げることになったのだ。

この新党には、維新の党に所属する51人の国会議員のうち22名ほどが合流すると目されている。事実上の分党である。

離党にあたり、橋下市長は子飼いの大阪系議員らを引き連れて党を割るようなことはしないと明言した。ところが翌日になると前言を翻(ひるがえ)し、国政新党の設立を宣言してしまった。いつものパターンだが、この政治家の言葉はあまりにも軽い。

報道を見ると、野党再編の動きに関心が集まっているが、今後最も注目すべきは安保法案の採決の行方だ。安倍政権は安保法案の参院での採決を大型連休前の9月18日までに取る方針だ。

しかし現在の審議ペースだと、18日までには目安とされた100時間の審議に達せず、野党に採決に応じてもらうのは難しい。そこで安倍政権は「60日ルール」(*)を適用するのではないかと目されていた。

(*)60日ルール……衆院で可決して参院に回された法案が60日以内に採決されないと否決とみなし、衆院で再議決。3分の2以上の賛成により法案が成立する。安保法案の衆院通過は7月16日。その60日後である9月14日から、このルールを適用できる

だが、60日ルールを使って法案が衆院に差し戻された場合、野党は態度を硬化させ、与党は7月中旬の衆院採決のような強行採決を再びすることになってしまう。そうなれば強引な国会運営に対する批判で、内閣支持率がさらに下がる恐れがある。

それを避けるために安倍政権はなんとかして参院で野党出席のもと、採決に持ち込みたいと考えた。そこで最も期待をしたのが、維新の協力だった。

維新分裂に隠されたふたつの意味

8月中旬、橋下市長と松井一郎大阪府知事は安倍首相、菅官房長官と4人だけで食事をした。下旬には松井―菅会談もあった。維新の党に採決に応じてほしいという官邸の意向は、橋下市長にもしっかりと伝わったはずだ。

ただ、維新の党は一枚岩ではない。安倍首相と近い橋下・大阪維新系は安保法案に賛成だが、民主党や結いの党出身議員らは反対の構えを崩していない。

橋下市長としては、採決に協力して安倍政権に恩を売りたい。しかし、維新の党における大阪系(橋下系)の議員は12名程度で少数派だ。さらに、11月の代表選に向けての一般党員獲得競争でも、実は大阪系以外の議員が党員を大量に獲得したという情報が入ってきた。このままでは旧民主系と旧結いの党系の議員らに安倍政権との対決路線で押し切られてしまう。

そこで橋下市長が考えたのが、今回の党分裂劇だったーーこれにはふたつの意味がある。党内中間派に対しては「橋下なしの維新に残って、選挙ができるのか」と脅す。その効果はてきめんで、合流希望者が22名程度まで膨らんだ。

そして新党に参加したい、という議員に対して「入党したければ安保法案採決に協力しろ」と突きつける。

安保法案採決の際に維新の党の対応が割れ、親・橋下市長の議員らが採決に応じれば、与党は「野党との審議は尽くした」というアピールにつながる。安倍政権にとっては、十分にありがたい話だろう。

こう見てくると、今回の騒ぎは11月22日の大阪W選挙向けのパフォーマンス以上に、安倍政権に恩を売って大阪系議員と自らの生き残りをかける橋下氏の戦略という側面が強い。

その心は、見返りとして来年の参院選で自民に非公式の選挙協力をしてもらうこと。橋下市長はその先に政界復活、安倍政権下での入閣も視野に入れていると私は見ている。

古賀茂明(こが・しげあき)1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。著著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)

(撮影/山形健司)