中国経済の減速やバブル崩壊への懸念から、一気に荒れ模様となっている株式市場。乱高下を繰り返す、連日ジェットコースターのような相場となっている。

今後、中国経済への先行き不安に加え、アメリカが利上げに踏み切る可能性も噂され、株価が大きく下落する可能性は否定できない。そこで気になるのが、昨年のいわゆる「GPIF改革」によって、株式運用枠を大幅に拡大した「年金積立金」への影響だ。

GPIFの正式名称は「年金積立金管理運用独立行政法人」。この組織が運用する国民年金、厚生年金の積立金の総額は約130兆円にも上る。公的な年金基金としては世界最大規模だ。

昨年10月、このGPIFはあまりにリスキーな改革を行なった。運用する年金積立金のポートフォリオ(資産構成割合)を見直し(簡単に言えば「お金の運用スタイル」を変更し)、比較的リスクの少ない国内債券から、国内外の株式へと大きくシフトしたのだ。

その結果、年金積立金から株式市場に流れ込む巨額の資金、さらに日銀による金融緩和政策も重なって、その影響を見込んだ投資家たちの期待が、国内の株価上昇を支える大きな要因となった。ざっくり言えば、俺たちの年金積立金がアベノミクスの「株価高騰」の道具として利用されたことになる。

もちろん、株価が順調に上がっていけば、年金基金の運用益も大きくなる。実際、今年7月にGPIFが発表した2015年3月期の運用益は、15兆2922億円と過去最高を記録。そのうち国内株の運用益が6兆9105億円、外国株が4兆7863億円と大きな割合を占めている。この時点では、GPIF改革は大成功だったといえる。

だが当然、「株」の運用にリスクはつきものだ。年金積立金を従来より多く「株式市場」につぎ込むということは、「支払った年金保険料」や「将来、受け取るはずの年金」が、より大きなリスクにさらされることを意味する。

荒海を漂う年金積立金

そのリスクを、経済評論家の山崎元(はじめ)氏は次のようにわかりやすく示してくれた。

「例えば、中国経済の懸念による、ここ数週間の株価下落で、一時は15%ぐらいの下げがありました。これを今のGPIFのポートフォリオでざっと計算すると、国内株だけでも5兆円ぐらい。外国株も下げているから、たった数日で10兆円ぐらいロスしたことになります」

たったの数日で10兆円も! 山崎氏が続ける。

「ただし、年金基金は長期運用が大前提ですから。それに、長期的には株式市場に投資したほうが高いリターンが期待できるというのも基本的には間違いではない。問題なのは、公的年金を使って株式を購入するという運用リスクについて、年金加入者がどこまで理解できているかという点です。

例えば、近い将来、アメリカが利上げに動き、日本の金融緩和が終わるだけで、単年度で(=1年で)10兆円、あるいは20兆円の損失が出る可能性があります。

GPIFでは、有識者会議運用委員会で検討した内容を元に、最終的には理事長の責任で運用計画を作るのですが、そうしたリスクを取ることに関して、国民的な合意がきちんとできているか曖昧(あいまい)なまま、なんとなく動いている節がある」(山崎氏)

さらに、こんな懸念も。

「GPIFは非常に規模が大きいにもかかわらず、年金積立金は国民から集めたお金だから、その契約や運用について公に発表する必要があります。すると、ヘッジファンドなどに次はどう動くのかを読まれやすく、カモにされやすい。

誤解しないでほしいのは、仮に株価下落によって年金積立金が大幅に失われたとしても、それですぐに年金制度が破綻するということではありません。とはいえ、支給開始年齢が引き上げられたり、支給額がさらに削減されるなどの影響が出る可能性はありますけれども」(山崎氏)

そう簡単に、年金は破綻するわけではないらしい。でも、俺たちが払ってる年金積立金が、こちらになんの説明もなく「株価乱高下」の荒海を漂っているのは、どうにも複雑な気分だ。

(取材・文/川喜田 研)

週刊プレイボーイ39・40号「シェールガス・バブル崩壊で俺たちの年金が消滅ってマジっすか」より