政府が立ち上がった若者支援だが、骨抜きになる可能性も…むしろ自民党の税制調査会の動きをウオッチすべきと古賀氏

若者支援策の検討を始めた安倍政権。雇用や収入に不安を持つ若者は多く、それ自体は必要なもの。

しかし、その中身が伴うものなのかと『週刊プレイボーイ』本誌でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は不安視する。

***政府の税制調査会(政府税調)で、若者への支援策が議論されている。

現在、65歳から74歳の高齢層の純資産(貯蓄から住宅ローン以外の負債を差し引いた額)は平均2046万円。これは25歳から34歳の若年層の純資産の約4倍にもなる額だ。

ところが、今の日本では年金に控除が認められるなど若者よりずっとリッチな高齢者が手厚い税制優遇を受けている。

それでなくても若者世代は非正規雇用者が増え、収入が少ない。そこで、課税を軽減して若者を支えようというのだ。税制調査会での論議は毎年の税制改革の叩き台になる。

若者を大切にしない国は活力を失う。若年層が疲弊して、結婚・子育てを安心してできなくなれば人口が減り、国家は縮んでいくからだ。これまでの日本はまさにそういう状況だった。なので、そこから抜け出そうとする政府税調の動きに異論はない。

問題はその本気度だ。これまで政権は、女性を支援する政策を積極的に推し進めてきた。例えば、女性の採用比率や管理職の割合など数値目標の設定を企業や地方自治体に義務づけた「女性活躍推進法」の成立はそのひとつだ。

だが、世界経済フォーラムが公表した男女平等指数で、日本は142ヵ国中104位(2014年)。鳴り物入りでできた「女性活躍推進法」も数値目標の内容は企業任せで、その達成に法的拘束力もない。これでは政権としての覚悟が見えない。女性有権者を意識した人気取りの政策と言われても仕方がないだろう。

そして来年夏の参院選から選挙権年齢が18歳に引き下げになる。この措置により、新たに参政権を手にする18歳、19歳は200万人にもなる。こうした若者層に投票してもらうためにも彼らにアピールができる玉が欲しい。もし自民党がそんな不純な動機をもとに若者支援を掲げるのであれば、女性活用策同様、その場しのぎの人気取りで終わってしまうだろう。

だから、これから論議される安倍政権の若者支援策が本物か否かを見極める必要がある。

本気度を見極めるためには?

その手段として、政府の税制調査会よりも、通常国会が終了した後に本格化するはずの“自民党の税制調査会(党税調)”の動きをウオッチしてほしい。ふたつの税調は「党高政低」と呼ばれるほど権限に差がある。政府税調の決定はあくまで政権与党が考えをまとめるための参考にすぎないが、党税調は税制の具体的な内容や税率について事実上の決定権を持っている。

政府税調は財務省の主導で行なわれている。17年春には消費税が10%になる。そのスケジュールを死守するためにも、財務省としては「消費税が国民のために使われている」と印象づけたい。そうした思惑もあって、国民受けする若者支援策が、この時期に政府税調でアピールされることになったのだろう。

だが、その支援策も党税調で骨抜きになる可能性は否定できない。自民党は非正規雇用の拡大につながる派遣法の改正を今国会で成立させようと必死だった。そんな政党が若者支援に積極的に取り組むだろうか。

新国立競技場の建設には1500億円以上もの巨費が投じられる見込みだ。もし、この税制調査会で若者支援策の規模が1千億円程度、あるいはそれ以下という結論に至るなら、また、具体的な数値目標を挙げない、もしくは目標を達成するという意思が見えないのであれば、それはニセモノだったということだ。

古賀茂明(こが・しげあき)1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。著著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)