安保法案が成立し、野党の動きに注目が集まっている。
だが、『週刊プレイボーイ』本誌でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は、今の野党の指針では与党に対抗できないだろうと指摘する。
*** 共産党が発表した「国民連合政府」構想に注目が集まっている。安保法案の成立を受け、「戦争法廃止、立憲主義回復という国民的大義で団結しよう」(志位[しい]和夫委員長)と、来年夏の参院選に向けてほかの野党に選挙協力を呼びかけたのだ。
確かに野党がバラバラで選挙を戦っても、今の自公政権には勝てないだろう。しかし、候補を統一して、与党候補と一騎打ちとなれば勝負はわからなくなる。選挙区によっては安保法案に反発する無党派層まで取り込み、野党票が与党の得票を上回るところも出てくるはずだ。
その結果、自公が過半数割れすることもあり得る。次の参院選で野党が統一候補を立てて挑んでくるのは、安倍政権が最も恐れるシナリオなのだ。
違憲まがいの安保法案を強引に成立させてしまった安倍政権に対する国民の不安は根強く残っている。そんなタイミングだけに、共産党の「国民連合政府」構想に大きな期待が集まるのは自然なことかもしれない。
だが、私自身はこの呼びかけに懐疑的な目を向けている。それは反安保法案の一点だけでは、やはり今の自公政権には勝てないと思うからだ。
世論調査を見ればわかるが、国民の関心は、今や安全保障よりも経済や社会保障に向かっている。そもそも、安保法案についても、いまだに3割程度の国民が賛成しているのだ。これは無視できないボリュームだ。
有権者の信頼を得るには野党再編が必要?
そんな状況で反安保法案のみを掲げ、選挙協力することが、果たしてどれだけ国民のニーズに叶(かな)っているのか? 「安保法案はもう終わった話。景気対策が信頼できる政党に投票してくれ!」と安倍政権に逆襲された時、本当に野党は対抗できるのか、甚(はなは)だ疑問だ。
有権者にしてみれば、反安保法案の一本やりで、そのほかの基本政策はあいまいな「政策なき連合」を簡単には支持できない。政策なき連合になれば、例えば、最初から自民と共産の候補しかいない選挙区なども出てきて、有権者の選択の範囲が著しく狭まるからだ。その結果、他の野党の票まで大量に棄権に回り、全国区でも自公の大勝を許すという結果にすらなりかねない。
さらに、より根本的な問題として、民主や維新は党の政策が極めてあいまいだ。そのまま「連合」しても、今の政党に不信感を持つ無党派層を再び選挙に動員することは難しいだろう。
従って、野党はまず原発政策や成長戦略など安全保障以外の基本政策を明確にした上で再編することが求められる。その上で選挙協力を合意した野党がそれぞれ候補を出し、選挙区ごとに予備選を行なえばよい。その当選者を正式な野党統一候補とするのだ。それなら、各党の候補者はそれぞれの政策を事前に表明する機会を与えられ、その公約に基づいて有権者が選ぶというプロセスも踏める。
1993年の細川連立政権、2009年の民主政権はともに非自民政権として国民の大きな期待を集めた。しかし、両者とも「反自民」の一点のみで成立したガラス細工のような政権だったため、内紛を繰り返した挙句、自壊してしまった。
安倍政権の暴走を防ぐため、来夏の参院選に向けて野党が選挙協力しようというのなら、その教訓を忘れるべきではない。
●古賀茂明(こが・しげあき) 1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。著著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)
(撮影/山形健司)