5年越しの難交渉の末、TPP(環太平洋パートナーシップ)協定がようやく大筋合意にこぎつけた。これで人口7億7千万人、世界のGDPの約36%をカバーする巨大な経済・貿易圏が誕生することになる。
TPPが発効すれば、多くの輸入品の関税が段階的に撤廃され、日本の消費者は今よりぐっと安い値段で買えるようになるとされる。例えば、千円以下のチリ産低価格ワインで100円前後、一足2万円弱のアメリカ製ブランド靴『クラークス』で6千~8千円前後、値下げになるとの予測がある。
現行38.5%の関税が発効初年度から一気に27.5%に下がる牛肉も身近になる。いまや国民食となった牛丼も、吉野家などの大手チェーンで20円ほど安く提供できるようになるとか。
ただ、もちろんTPPがもたらすのは恩恵ばかりではない。日本の国内制度も変更を強いられ、国民の暮らしがダメージを受けることもありえるのだ。
そのひとつが食の安全だ。実はTPP交渉は参加12カ国が一同に集まる全体交渉とは別に日本対アメリカ、日本対オーストラリアなど特定の2ヵ国が個別に行なう交渉のテーブルもある。そのやりとりを記したのが「交換文書一覧」と呼ばれるものだ。
ここに、「危ないトラップがちりばめられている」と警告するのは、先のアトランタ閣僚会議を取材したPARC(アジア太平洋資料センター)の内田聖子(しょうこ)事務局長だ。
一例を紹介すると、日米の交換文書一覧には「衛生植物検疫(SPS)」の項目があり、「両政府は収穫前及び収穫後に使用される防かび剤、食品添加物並びにゼラチン及びコラーゲンに関する取組みにつき、認識の一致を見た」と書かれている。内田氏によると、
「これも怪しい。(12カ国による大筋合意の内容を記した)概要文書ではSPSについては、『日本の制度変更が必要となる規定は設けられておらず、日本の食品の安全が脅かされるようなことはない』と書いてある。なのに、交換文書一覧のほうでは『認識の一致を見た』とわざわざ明記している。日本に特段の制度変更の必要がないなら、こんな記述は必要ないはずです。
アメリカはこれまでも食品添加物の扱いなど、規制が高すぎるとして、日本に変更を求めてきました。その経緯を考えれば、この『認識の一致をみた』という一文にはTPP発効後、日本がアメリカとの約束によって、なんらかの形で食品安全などの基準に変更を迫られる根拠が隠されている可能性が大なのです」
しかもSPSは氷山の一角にすぎない。TPP交渉は関税パート、非関税障壁パートを合わせると、21もの交渉項目があるのだ。TPP交渉を長くウォッチしてきた鈴木宣弘・東京大教授がこう断言する。
「2013年、安倍政権はコメ、麦、牛肉など聖域5品目を『守るべき国益』として国会決議しましたが、その項目のほとんどを譲り渡してまで日本がTPPを推進する意味は見出せません。まさに日本は今、ほかの交渉国から何もかもむしり取られる『草刈り場』と化しているのです」
TPPを「成長戦略の切り札」としきりにPRする安倍政権。しかし、その宣伝文句を鵜呑みにするのはかなり危うい?
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