軽減税率により、さまざまなダメージがあるという古賀氏 軽減税率により、さまざまなダメージがあるという古賀氏

消費税増税の話題とともに提案される軽減税率。海外では導入され、低所得者にとってメリットがあるように思える案だ。

しかし、『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は「デメリットばかり」だと断言する。

*** 軽減税率をめぐる議論が活発だ。

消費税は2017年4月に10%へと増税される。可処分所得の少ない低所得世帯にとって、この増税は大きな負担となる。

そこで食料品など生活必需品の消費税率を低く抑え、低所得層に配慮しようというのが軽減税率だ。

ただ、商品ごとに税率を変えると、事業者が納めるべき消費税額の算出が複雑になる。そのため、どのような仕組みで税率を軽減すれば適正に消費税を徴収できるのか、議論が噴出しているのだ。

例えば、先に財務省が中心となって打ち出した、マイナンバーカードを活用して、一定の軽減税額を還付しようというアイデアもそのひとつだ。

だが、私はこんな議論に大した意味はないと考えている。なぜなら、「軽減税率は不要」というのが私の結論だからだ。

軽減税率は一見、弱者に優しい仕組みのように映る。だが、実際には富裕層ほど得をする制度である。

例えば、高所得者は100g・1000円の和牛のステーキを買う。10%の消費税が8%に軽減されれば、20円の得だ。低所得層は、そんな高い牛肉など買えない。格安スーパーのセールで100g・100円の鶏肉を買う。2%軽減で2円安くなる。このように、金額ベースだと明らかに金持ちほど恩恵が大きいと言える。

ただ、低所得層ほど、家計の消費支出に占める飲食費の割合が高い(エンゲルの法則)のだから金額の高低だけでは恩恵は測れないという声もあるだろう。しかし、総務省が発表している家計調査によれば、年収436万円以下の世帯に占める食費の割合は25.1%、年収906万円以上だと20.2%(2014年度)と、極端な差はないのだ。

さらに、軽減税率にはさまざまなデメリットがある。

軽減税率導入が“増税の口実”にも

まず心配されるのは脱税の横行だ。軽減税率の対象にならない商品の売り上げにも低い税率を適用し、本来納めるべき消費税額をごまかそうとする事業者が現れかねない。これは立派な脱税行為だ。

脱税を防ぐためには、EU諸国が導入しているインボイス(税額票)のように、商品ごとに税抜き価格、税率、税額が明記された明細書が必要となるが、その事務処理コストは膨大。とりわけ、中小零細企業はとてもそのコストを負担できないだろう。

軽減税率の品目選びが巨大な利権と化すのも確実だ。軽減税率の対象になるかならないかで、商品の売り上げは大きく変わる。当然、関連業界は政治家や官僚に猛烈な陳情を行なうことになるだろう。そうなれば、またぞろ政治献金や天下りが横行するのは目に見えている。

もうひとつ。軽減税率を実施すると税収が減る。食品すべてを軽減税率の対象にしたときの減収額は、1.3兆円に上るという試算もある。そうなれば、その穴埋めにもう少し消費税を上げようとか、別の税金を増やそうといった増税の口実になってしまう。

こんなにデメリットばかりの軽減税率はやめたほうがよい。

その代わりに軽減税率を導入すれば減少したはずの税収分を、消費増税のダメージを受けやすい低所得層にターゲットを絞ってさまざまな形で給付するほうが、ずっとシンプルで効果が高い。

これなら、インボイスを作成するコストもかからないし、事業者の脱税や対象品目選定プロセスの利権化なども防げるだろう。

古賀茂明(こが・しげあき) 1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。著著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)

(撮影/山形健司)