農業を支えるためには、業界内の競争を促すことが大事だという古賀氏

安価な外国産に押され弱体化が進む日本の農業。さらにTPP(環太平洋パートナーシップ)協定の大筋合意による関税撤廃が拍車をかけそうだ。

政府もそれは認識しているようだが、『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は、その方針が間違っていると指摘する。

***TPP協定の大筋合意で、日本は新たに400もの農産品の関税を撤廃することになった。これからは安くて質のいい外国産の農産品がどんどん入ってくる。手をこまねいていると、輸入産品との競争に負け、日本の農業はあっという間に衰退しかねない。そんな不安な時代に日本は突入した。

その危機感は政府与党にもあるのだろう。このところ、安倍政権は事あるごとに「強い日本の農業を育てる」とアピールしている。だが、実際の農政を見ると、そのアピールは口先だけのものではないかと思えてならない。

例えば、つい先日、こんなニュースが流れた。2015年産のコメの取引価格が60kgで1万3178円となり、前年の米価に比べると5.6%上昇した。

2015年のコメの需要予測は770万t。消費者の深刻なコメ離れが続き、96年の943万tに比べると2割近くも減っている。なのに、米価は上がっている。

なぜ、こんなことが起きるのか? それは農水省が飼料用米に対して助成金を大幅に増額(10a[アール]当たり最大10万5千円)、農家に牛や豚のエサとなる飼料用米の生産を促すという政策を打ったからだ。

その結果、飼料用米の作付面積は7万3千ha(ヘクタール)と昨年より約4万haも増え、その収穫量は39万tにもなると見込まれている。その分、人間が食べる主食用米の生産量が減り、昨年より米価が6%近く値上がりしたというわけだ。

そこに表れているのは、とにかくコメの値段だけは絶対に下げたくないという政府・農水省の強い願望だ。米価を下げれば、自民党の大票田である農協=農家の反目を招き、票を失う。その事態を避けたいのだ。

値上がりさせた本当の目論見は?

だが、こんなことをしていては日本の農業はいつまでたっても強くならない。TPP発効に備え、本当に日本農業を強化するつもりなら、農家がコメを自由に作れる環境を整えなくてはならない。バカ高い補助金をつぎ込んで、飼料用米への転作を促すなどもってのほかだ。

そんな財源があれば、農地を拡大し、コメを安い値段で大量生産しようと尽力している大型農家、あるいは個性豊かな食味を持つ高級米を手間暇かけて栽培している中小農家の営農支援に回すほうがずっと有益だ。

こうした農家が作るコメには競争力がある。日本国内で盛んに消費されるだけでなく、海外に輸出することも可能だろう。そうなれば将来の展望が描け、後継者不足に悩む農業に若い世代がたくさん参入してくることも期待できる。

政府が言うように、コメを輸出産業の柱に育てるなら、価格を下げ、大量に輸出できるように生産量を増やし、少しでも付加価値を上げることが必要だ。そのためには農家の間の競争を避けていてはダメ。現在の農政は、コメの価格を上げ、生産量を減らし、飼料用という付加価値の低いコメにシフトするという真逆の政策を取っている。

政府が目指すべきは農家のための農政ではない。消費者のための農政であり、国際競争力のあるニッポン農業を育てるための農政だ。農家の前に、政府こそ変わらなければならない。

古賀茂明(こが・しげあき)1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。著著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)

(撮影/山形健司)