国力を維持するためにも中韓との関係改善は必要だと主張する古賀氏 国力を維持するためにも中韓との関係改善は必要だと主張する古賀氏

今月初め、日本、中国、韓国の首脳が集まった。日本にとっては、良好とはいえない両国を相手にした会談に安倍首相はその成果を強調。

しかし、『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は、安倍首相本人は中韓との関係改善をする気はないと指摘する。

*** 11月1日、「日中韓首脳会談」が韓国・ソウルで開催された。

安倍首相は「3ヵ国の協力プロセスを正常化できた。大きな成果だ」と胸を張るが、額面どおりに受け止めることはできない。

なぜか? 成果といえば、3首脳が一堂に会したということくらいで、会談の内実そのものはあまりに乏しいからだ。

例えば、日中首脳会談の合意を見ても「東シナ海ガス田の共同開発に向け、協議再開を目指す」「(軍の偶発的な衝突を避けるための)海上連絡メカニズムの運用開始に向けて互いに努力する」など「目指す」「努力」というフレーズが目立つ。

霞が関文学では、これらの言葉は将来の見通しが立たないが表向きには前に進んでいる印象をつくりたい時に使うもの。その意味するところは、“努力はするが、日中協力が実現しないことも十分あり得る”ということだ。

韓国との間で懸案になっている慰安婦問題についても、朴槿恵(パククネ)大統領と「早期の妥結に向けた協議の加速」で一致したものの、具体的な解決策はついに打ち出せずじまいに終わってしまった。

その一方で、中韓首脳の蜜月ぶりは際立っていた。2泊3日の中国・李克強(りこくきょう)首相の訪韓は公式訪問という格付けで、韓国側は夕食会まで開いてもてなした。対する安倍首相は1泊2日の実務訪問という扱い。日中韓という枠組みながら、日本はどこか「のけ者」だった。

しかし、安倍首相にすれば3ヵ国会談での自分の立ち位置は、会談前から納得ずくだったことだろう。元々、彼は中国や韓国とはそれほど密接な関係にはなりたくない、特に歴史認識の問題については一歩も譲らないという考えの政治家だ。それにへたに中韓に妥協すれば、大切な支持者である保守・右派層の反発を呼びかねない。

東アジア情勢が不穏になることを避けたいアメリカは、日韓の不仲や日中が尖閣問題などで事を構えることを望んでいない。日本の官邸サイドとしては、日中韓首脳会談に積極的に応じる姿勢を示すことでアメリカのリクエストに応えたことにしたいという思惑だろう。

国益の損失につながる危機感を安倍首相から感じない

ただ、無視できないのは、外交や安全保障の舞台だけでなく、アジアにおけるビジネスシーンからも日本は浮きがちとなっている、ということだ。その象徴が中国の習近平(しゅうきんぺい)主席が提唱する「一帯一路構想」ある。

これは中央アジアを経由してヨーロッパとつながるシルクロード(一帯)、インド、アラビア半島、アフリカ東岸、ヨーロッパを結ぶ21世紀版海上シルクロード(一路)で交通インフラ整備、貿易促進、資金の往来を促進しようというものだ。

中国を中心とするアジアのインフラ需要は8兆から9兆ドルと目されている。一帯一路ビジネスにはすでにEU諸国や韓国が参加を表明している。それを資金面で支えるためのAIIB(アジアインフラ投資銀行)にも西欧諸国と韓国は参加したが、中国と距離を置く日本は蚊帳(かや)の外状態だ。少子高齢化で国内需要の伸びが見込めない中、これから最大のビジネスチャンスを生み出すアジアの成長を国内に取り込めないハンデは大きい。

安倍首相は歴史認識問題などで中韓に譲りたくないようだが、嫌中嫌韓の個人的信念に執着しすぎると、アジアビジネスで日本勢が出遅れ、国力はますます衰退することになる。

中国、韓国との関係改善に全力を注がないことが国益の損失につながる――その危機感を今回の首脳会談での安倍首相からは感じられなかった。

古賀茂明(こが・しげあき) 1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。著著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)

(撮影/山形健司)