激しさを増すアメリカと中国、ロシアの対立に対して、宗男・佐藤両氏の見解は?(左から鈴木氏、佐藤氏)

鈴木宗男・新党大地代表と、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏による対談講演会「東京大地塾」。

今回は、アメリカのイージス艦が南沙諸島の中国人工島近海を航行した件とシリア情勢だ。激しさを増すアメリカと中国、ロシアの対立。これに対して日本はどうすべきなのか? 

安保法制成立の理由となった中国脅威論だが、今回の問題には積極的に関わらないほうがいい日本の特殊事情があるという。それは何か?

■中国は日本のまねをして南沙諸島を埋め立ててる

鈴木 今日は佐藤さんから、10月27日にアメリカのイージス艦が南シナ海で中国の造った人工島から12カイリ内の海域を航行した件、そしてシリア情勢について分析をしてもらいたいと思います。

佐藤 今回のイージス艦派遣ですが、これ国際法的には問題ないけど、政治的にはいいのか?ってことなんです。ということで、海の国際法「国連海洋法条約」をおさらいしてみましょう。

まず、潮が一番引いた時の海岸線を「基線」といって、ここから12カイリを「領海」といいます。その12カイリの外側、24カイリまでは「接続水域」で、この範囲に入ってきた船には変なものを積んでないかチェックできる。

で、基線から200カイリを「排他的経済水域」といって、これは経済関連、漁業権や地下資源に関しては沿岸国に権利があるということです。

では、日本の領海内、例えば銚子沖3カイリの所を北朝鮮の駆逐艦が航行したら? これは合法です。海では「無害通航権」という権利が認められており、その国の旗を掲揚して、軍艦が他国の領海を通過するのは合法です。

しかし、例外がある。潜水艦は浮上しないといけない。つまり、アメリカの潜水艦が日本の領海内を潜航したまま航行しているのは、明らかな国際法違反なんです。

そして国際法では、基線を引くことができるのは「島」と「岩」と決まっている。島は人が住める所で、領海、接続水域、排他的経済水域を設定できる。一方、岩は領海はいいけど、排他的経済水域は設定できない。その岩も1日のうち5分でも沈んでしまうと岩とは認められない。つまり、基線が引けないので領海も設定できない。これが現行のゲームのルールです。

で、このルールに対して中国は今、南シナ海でチャレンジを行なっているわけです。

メチャクチャな手法を中国は日本から学んだ

鈴木 どんなチャレンジですか?

佐藤 自分たちで島を造って、その領土から12カイリの領海、200カイリの排他的経済水域圏を設定してもいいじゃないか、ということです。アメリカはこれに対して、中国の人工島を領土とは認めないし、国際法の「航行の自由」を守るべきだと主張。だから中国の人工島12カイリ内に、わざわざイージス艦を航行させたんです。

このゲームをアメリカは当分やり続けるでしょう。

鈴木 すると、日本はどうしたらいいですか?

佐藤 中国のやっていることはメチャクチャですが、日本はこの問題からは少し距離を置いたほうがよいと思います。というのも、そのメチャクチャな手法を中国は日本から学んでいるからです。

日本は第2次世界大戦、大東亜戦争では国際法を順守していません。その理由は、「国際法は英米の白人たちが勝手に作った法律だから、我々は従わないでいい」というものだった。この日本の発想に中国は学んで、南シナ海でむちゃしているわけです。

さらに、日本はこの問題で騒ぎ立てないほうがいい別の理由があります。

鈴木 それはなんですか?

佐藤 日本最南端の島、沖ノ鳥島問題です。あの「島」は、満潮時に海面から16㎝くらいしか上に出ていない。だから今、日本政府はその横をチタンで包み、周囲をコンクリートブロックで囲んで埋め立てています。そして「岩」を「島」だと言い張って、200カイリの排他的経済水域を日本領として持っている。

中国の場合、海に沈んでいる所に土を盛って領土と主張しているので、日本と中国は全然違いますが、日本にはこういう特殊事情があるので南シナ海問題に対して静かにしていたほうがいいと思いますね。

中国と本当にケンカする気はないアメリカ

鈴木 なるほど。しかし、アメリカはなぜ急に中国への挑発を始めたんですか?

佐藤 9月25日の米中首脳会談で、オバマさんは習近平に「南沙諸島の埋め立て工事はやめてくれ」と頼んだ。しかし、習近平は言うことを聞かなかった。そこで頭にきてあんな行動に出たわけです。しかし、中国と本当にケンカする気はないから、米海軍のイージス艦はフィリピン、ベトナムが領海と主張する所も航行したのです。

その意味において、今回の行動には腰が入っていません。しかし続けるでしょう。

鈴木 アメリカはまた軍事展開する所が増えた?

佐藤 そうです。アメリカはロシアと、ウクライナやシリアでケンカしている。イランとの関係もうまくいかず、中東は泥沼状態です。そしてアフガンからは完全撤退できていない。これで3正面。そこに今度、南シナ海で4正面となります。これは完全に手を広げすぎです。だから息切れして、どれも長続きしない。

今のアメリカの外交の問題点は、頭にきてその場の思いつきでやっていることです。

鈴木 困りましたね。

佐藤 もし南シナ海で中国に対して何かやるのならば、こうするといいと思います。米中2ヵ国間の首脳会議で決裂したらG7に持っていって、中国に対する非難決議を出す。そして先進国の歩調を整えて国連に持っていく。

その手続きを経てから、アメリカはオーストラリア、フィリピン、日本、韓国などと連合艦隊を組んで、南シナ海の中国人工島から12カイリ以内をみんなで通るんです。これならば中国に対する、キチンとした圧力になります。

*この続きは、『週刊プレイボーイ』47号(11月9日発売)にてお読みいただけます!

(取材・文/小峯隆生 撮影/五十嵐和博)

●鈴木宗男(すずき・むねお)1948年生まれ、北海道出身。新党大地代表。2002年に国策捜査で逮捕・起訴、2010年に収監される。現在は2017年4月公民権停止満了後の立候補、議員復活に向け、全国行脚中!

●佐藤優(さとう・まさる)1960年生まれ、東京都出身。外務省時代に鈴木宗男氏と知り合い、鈴木氏同様、国策捜査で逮捕・起訴される。外務省退職後は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、作家・評論家として活躍

■「東京大地塾」とは?毎月1回、衆議院第二議員会館の会議室を使って行なわれる新党大地主催の国政・国際情勢などの分析・講演会。鈴木・佐藤両氏の鋭い解説が無料で聞けるとあって、毎回100人ほどの人が集まる大盛況ぶりを見せる。次回の開催は11月26日(木)。詳しくは新党大地のホームページへ