関電は価格競争を表向きだという古賀氏

来年4月より電力の小売りが全面自由化する。それに伴い、関西電力は電気使用の多い家庭に対して値下げを断行することとなった。

しかし、その値下げの理由は表向きだと『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は断言。関電は何を目論んでいるのか?

***関西電力(以下、関電)は、来年4月にオール電化住宅といった電気をたくさん使用する家庭の電気料金の値下げに踏み切る。

今の電気料金は、使用電力が増えれば増えるほど高くなる。しかし関電の新プランは、電気使用量が月300kWを超えた段階で電気の単価を下げるというものだ。報道によると、標準的なオール電化住宅(1ヵ月電力使用量約670kW)の場合、月1万6千円ほどだった電気料金が10%前後安くなるという。

関電はこれまで2度、家庭向け電気料金を値上げしている(2013年5月は9.75%、15年6月は8.36%)。火力発電所向けの燃料費増などで発電コストがかさんだためというのが、その理由だ。

にもかかわらず、今回は気前よくオール電化住宅向けに料金割引プランをぶち上げている。そのワケについて関電は「来年4月から電力小売りの全面自由化がスタートする。これをきっかけに他の電力会社が営業攻勢をかけてくると予想されるので、シェアを奪われないよう、割安の新料金で電力使用量の多い家庭を囲い込むため」と説明している。

だが、本当の理由は別にある。それは原発再稼働への対応だ。

関電は、高浜(たかはま・福井)、大飯(おおい・福井)原発などを一日も早く再稼働させたいが、そうなると関電の発電量は一気に増える。高浜、大飯合わせて8基ある原発のうち、仮に半分の4基が再稼働したとしても、400万kW前後も供給量が増える計算だ。

ところが、11年の震災以来、節電の動きが進んだ。関電域内でもこれから本番を迎える冬場の電力消費ピーク量は震災前の10年と比べ、約170万kWも減っている。また、今夏の最大需要に対する供給余力(予備率)も13.6%だった。

つまり、原発からの電気がなくても、電力不足の心配は生じていないのだ。

安売りでボロ儲け?

そこに新たに原発再稼働で数百万kW規模の電力が追加されることになると、完全にジャブジャブ状態となってしまう。そこでそのダブつく電気を売りさばこうと、電力消費量の多いオール電化住宅をどんどん拡大しようと安売り攻勢に出たというのが真相である。

しかし、省エネルギーを推進するために、電力消費を増やすほど料金を上げるというのが電力会社のこれまでの基本政策である。

だが、この新料金プランでは「安くするから、もっと電気をたくさん使ってください」という内容になっている。省エネ社会、CO2削減の実現という、電力会社が本来、掲げなくてはならない企業倫理にも反している。

しかも、関西電力の今年4月から9月期の営業利益は1757億円の黒字だ。安売りしてまでさらなる黒字確保に走る必要はないはずだ。値下げするなら、大口使用者向けではなく、一円でも節約しようと懸命に節電に励む庶民向けの料金を下げるのが筋だろう。

これらの矛盾について、関電はどう考えているのだろうか。

古賀茂明(こが・しげあき)1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。著著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)

(撮影/山形健司)