近年、尖閣(せんかく)諸島近海では中国海警(かいけい)局の公船(日本でいえば海上保安庁の巡視船にあたる)による領海侵犯が頻発。この手のニュースには日本国民もすっかり慣れてしまった感がある。

しかし、中国はここにきてついに「軍艦」を派遣。これまでとは明らかに違う動きに日本の当局は神経をとがらせている。一体、中国側の狙いはなんなのか?

11月11日午後5時頃、東シナ海の尖閣諸島南方海域で、海上自衛隊のP-3C哨戒機(しょうかいき)が中国海軍の「ドンディアオ級情報収集艦」を発見した。同艦は日本が設定する「接続水域」に入るかどうかギリギリ、尖閣諸島から約44.4kmの辺りをかすめながら丸一日、東西に何度も行ったり来たりして姿を消したという。

2012年に日本が尖閣諸島を国有化して以来、中国海警局の公船は領海侵犯を繰り返してきた。しかし、この海域で中国海軍の艦船が確認されたのは初めてのことだ。今回の件について菅義偉(すがよしひで)官房長官は「単なる通過ではなく、東西に反復して航行するなど特異な航行だ」とコメントし、中国側を牽制した。

米国防シンクタンクで海軍戦略アドバイザーを務める北村淳(じゅん)氏は、中国の狙いをこう解説する。

「中国海軍が情報収集艦を派遣したのは、尖閣周辺を警備する海保巡視船と、その後方にいる海自駆逐艦の各種電子情報を収集・分析するためでしょう。残念ながら今後、中国海軍は『航行自由原則』を振りかざし、尖閣など日本近海に大手を振ってやって来る可能性があります」

実は、この話には“伏線”がある。10月26日、米海軍が南シナ海で敢行した「航行自由原則維持のための作戦」(FON作戦)だ。

南シナ海の南沙(なんさ)諸島周辺では、中国がサンゴ礁を埋め立てて“人工島”を建設し、自国領土だと一方的に主張している。これがまかり通れば、人工島の周辺12カイリは中国の領海となり、24カイリは接続水域として、船舶に対する「乗り込み検査」が可能。さらに、200カイリの排他的経済水域(EEZ)内では水産資源や海底の鉱物資源が中国の管理下に入ってしまう。

これに対し、フィリピンやベトナムなど南シナ海沿岸諸国と連携する米海軍は、第7艦隊所属の駆逐艦「ラッセン」を投入。人工島から12カイリ以内(中国が領海と主張する海域)を航行することで中国を強く牽制したのだ。

「国際海洋法上は、いかなる国の領海といえども、軍艦を含む外国船が沿岸国に対し危害や脅威を与えない方法で通航すること、つまり『無害通航権』が認められています。米海軍の『FON作戦』はこれを押し立てて、中国が埋め立てたスービ礁から6カイリ付近を通航したわけです。アメリカは人工島を中国領土と認めていないので、表向きはあくまでも『公海を通航』したことになりますが。

しかし逆に言えば、これによって中国もアメリカや日本の領海内を堂々と『無害通航』できることになった。ある意味では、返って中国に“口実”を与えてしまったという側面も否定できないのです」(前出・北村氏)

しかも、ややこしいことに中国は尖閣諸島を自国領土だと主張している。状況を整理してみよう。

・中国にとって尖閣は中国領土だから、そもそも自由に軍艦が通航できる。 ・しかも「無害通航権」という次なるカードがあれば、日本や国際社会も「そこは日本の領海だからダメだぞ」とすら言えない。

つまり、中国が尖閣へ軍艦を出動させてくるための“二段構えの口実”が完成したわけだ。となると、やはり11月11日の情報収集艦の出現はこれまでの公船による領海侵犯とは全く違う意味合いを持っていると考えたほうがよさそうだ。

●その先にある海自と中国の“チキンレース”とは…。この記事の全文は『週刊プレイボーイ』49号「中国軍艦が航行自由作戦で尖閣を狙う!」でお読みいただけます。

(取材/小峯隆生、世良光弘)