民主党政権時代には11位まで上がった「報道の自由」ランキングが、今年は61位まで下がってしまった 民主党政権時代には11位まで上がった「報道の自由」ランキングが、今年は61位まで下がってしまった

国連が12月に予定していた日本の「表現の自由」に関する調査が、日本政府の要望で急きょキャンセルされた。

政府による報道番組への介入など日本のメディアが危機的状況にある中、今回の調査キャンセルを外国人特派員はどう見ているのか? 

「週プレ外国人記者クラブ」第11回は、イギリスの「インディペンデント」紙などに寄稿する、デイビッド・マックニール氏に話を聞いた。

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―「表現の自由」に関する調査の受け入れを日本政府は「スケジュールの調整ができない」という理由で直前にキャンセル。来日するはずだった国連特別報告者のデイビッド・ケイ氏は、これについて自身のツイッターで「失望した」と述べていました。

マックニール 私はケイ氏に直接取材しましたが、彼はこの件について大変に驚き、同時に失望していました。12月1日から8日までの予定で、主に特定秘密保護法の影響やネット上の人権、日本における報道の自由、情報へのアクセスなどの状況に関する調査が行なわれる予定でした。

日本政府は一度、正式に受け入れを表明し、事前に政府関係者や市民グループなどとの協議も行なわれていたのです。それを11月に入って「調査を来年の秋以降に延期したい」と言い出し予定をキャンセルしてしまったのですからケイ氏が驚いたのは当然でしょう。

―こうした政府の対応について、どのように思いますか?

マックニール 私は個人的には驚きませんでした。なぜなら報道の自由、表現の自由に関する日本の現状が国際的な基準に照らして非常に恥ずかしい状況であることを日本の政府関係者はよくわかっているはず。

報道の自由や言論の自由を守るために活動している国際的なNGO「国境なき記者団」が毎年発表している「世界報道自由度ランキング」の2015年版によれば、日本は180ヵ国中61位と、先進国の中では例外的に低い。国連の調査でさらなる状況の悪化が報告されれば、安倍政権にとって大きなマイナスイメージになるだけに調査を来年夏の参院選後にしたかったのでしょう。

政府はあからさまにメディアの「選別」をしている

―報道の自由ランキングの「61位」という評価は妥当なものなのでしょうか?

マックニール 民主党政権下の2010年には一度、ランキングが総合11位まで上がりましたが、この5年間で50位も下げてしまいました。特に福島第一原子力発電所の事故が発生し、第二次安倍政権が成立してからの低下は著しいものがあります(※12年、13年は53位、14年は59位)。

「国境なき記者団」は日本の報道の自由について、以前からふたつの問題点を指摘しています。ひとつは限られた一部のメディアにしか取材が許されない日本の「記者クラブ」システムの閉鎖性。もうひとつが原発事故以降の、主に原発に関する情報の開示のありかたについてです。

―日本の記者クラブ制度の「閉鎖性」については、マックニールさんも以前から何度も指摘されていましたよね。

マックニール 私は記者クラブ制度そのものが長期政権時代の自民党のために作られたものなのだと思っています。だから、民主党が与党になった時、彼らはこの記者クラブ制度の改革を行なおうとしました。

私はその当時、岡田外務大臣の記者会見を取材したことがありますが、会見には日本の新聞やTVなどの大手メディアだけでなく、フリーランスやインターネットメディアの記者でも自由に出席して質問ができ、何を聞いてもよかった…。日本的な文脈で言えば「革新的」なことでしたし、だからこそ、当時、民主党政権下で日本のランキングが11位まで上昇したのでしょう。

―今回、政府の判断で国連による調査はキャンセル、あるいは「大幅に延期」されてしまったわけですが、日本における報道の自由、言論の自由の状況は、やはり深刻なものだと考えていますか?

マックニール そう思います。NHKは今や日本政府の広報機関のようになってしまいましたし、慰安婦報道を巡る誤報が問題になって以来、これまでメディアとして「権力の監視」という役割を果たしてきた朝日新聞の力は大幅に弱められました。昨年12月の衆院選の際、民放を含むすべての放送局に対して「偏(かたよ)りのない報道」を徹底するようにという通達が出たのも異例のことでした。

また、政府や自民党は新聞社やTV局など「個々のメディア」に直接働きかけ、お気に入りのメディアとそうでないメディア、それぞれに異なる対応をすることで、あからさまにメディアの「選別」やコントロールを行なうようになりました。例えば、我々FCCJ(日本外国特派員協会)の会見には政府や自民党の関係者は出たがらない。日本の記者クラブと違って、厳しい質問が飛んでくる可能性があるので会見に出席するメリットがないと考えているのでしょう。彼らが最も嫌うのが「想定外」の質問をされることですから。

イギリスBBCとNHKの大きな違い

―そうした「報道の自由」の危機に対して大手メディアはあまり強い抵抗を示していないようにも見えます。

マックニール 私を含む外国特派員のほとんどがそのことをとても心配しています。この夏の安保法制を巡る議論では、政府が明らかな「憲法違反」を犯しているという見方が大勢を占めていたにも関わらず、メディアは英語でいう「ウォッチドッグ=番犬」、つまり「権力の監視役」という役割を十分に果たすことができなかった。最近は東京新聞や神奈川新聞などが朝日に変わって、そうしたウォッチドッグの役割を担おうとしていますが…。

今年の夏に起きたことを見る限り、「改憲」を強行しようとする勢力は非常に野心的なプランを持っていて、法の解釈すら簡単に捻(ね)じ曲げてしまう。今のところ、それに対抗する野党の力が十分とは言えないだけに「最後の砦(とりで)」としてのメディアの役割は大きいはずです。

―ところで、イギリスのBBC(英国放送協会)も国民からの受信料によって運営される「公共放送」でNHKとの類似点も多いように思うのですが、BBCでは政府による報道への圧力とか報道の自由をめぐる問題はないのでしょうか?

マックニール 確かにBBCは多くの点でNHKと似ていますし、現実には政府からの圧力も受けているので、決してパーフェクトとは言えませんが、両者の最も大きな違いは「ジャーナリズム」に対する基本的な認識というか、一種の「文化」ではないかと思います。イギリスでは好むと好まざるとにかかわらず、メディアが権力から独立した自由な存在でなければならない、あるいは「権力の監視」という役割を持っているという意識が広く国民全体に共有されていて、たとえそれが政治家にとって不都合な場合でも、そうしたメディアに対する認識は受け入れざるを得ない。

こうした基本的な認識を社会全体でしっかりと守ることが報道の自由を守ることであり、それが民主主義を守るためには欠かせないものだということを日本のメディアや日本人がもっと理解する必要があると思います。

●デイビッド・マックニール アイルランド出身。東京大学大学院に留学した後、2000年に再来日し、英紙「エコノミスト」や「インディペンデント」に寄稿している

(取材・文/川喜田 研)