鈴木宗男・新党大地代表と、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏による対談講演会「東京大地塾」。
今回は、11月13日にパリで発生したテロ問題についてだ。1月に続いて、なぜフランスが狙われたのか? その理由を分析すると、次は日本が標的になる恐れが見えてきた…。
それはなぜなのか? さらに、中東の混乱がこれ以上拡大すると、世界は再び大きな戦争に巻き込まれるという。今回も鋭い分析が続々と飛び出した!
■「イスラム国」台頭の原因は100年前の英仏露の秘密協定
鈴木 今日は佐藤さんに11月13日に起きたフランスのテロ、さらに混沌(こんとん)とする中東情勢をわかりやすく語っていただきたいと思います。
佐藤 まず、フランスのテロの話ですが、ほとんどの日本のマスメディアとTVのコメンテーターは、このテロのとらえ方を間違っています。「イスラム国」が“原因”で世界の混乱が起きていると言っていますが、これは間違い。「イスラム国」は“原因”ではなく“結果”なんです。
鈴木 すると原因はなんでしょうか?
佐藤 これは1916年、第1次世界大戦中にイギリス、フランス、ロシアがオスマントルコをどのように分割するかを話し合ったサイクス・ピコ協定です。オスマントルコは、最大時にはモロッコの東側からエジプト、アラビア半島の南岸、イラクからクウェートを含む湾岸諸国、そして北は黒海を囲むように広がっていました。
しかし、英仏露の3国は宗教、部族、資源などを一切配慮しない形で分割案を決めてしまった。そのため、中東の今の国境線は非常に無理があるんです。今、国際社会が混乱しているのは、このサイクス・ピコ体制が機能しなくなってきたから。その結果、「イスラム国」が出てきた。つまり、中東に新しい秩序ができない限り、「イスラム国」を排除しても、名前の違う似たような運動がまた出てきます。
鈴木 日本のマスコミはそこのところが見えていない、ということですね。
ベストセラーで読み解く未来とは
佐藤 はい。他にも今回のテロで大騒ぎしていますが、むしろ、今年1月7日に起こったパリのテロで世界の歴史が変わったと見るべきなんです。1月のこの大地塾でも言いましたが、1月8日、イギリスの国内防諜機関「MI5」のアンドリュー・パーカー長官が「シリアのイスラム過激派組織が欧米で無差別攻撃を計画している」と述べました。これは世界的規模のカリフ帝国をつくる革命運動が開始されたという意味です。
フランスではこの時、1月11日に「自由や民主主義の価値を守ろう」として、大規模なデモ行進がありました。参加した市民はパリだけで370万人、フランスのオランド大統領やドイツのメルケル首相など各国首脳が腕を組みながら行進しました。
しかし、今回はもっと多くの人が亡くなったのにそこまでの抗議運動は起こっていない。オランド大統領は「復讐だ!」と強く叫んでいますが、フランス国民には「もう、いいよ」という気持ちが広がっています。1月にあれだけ強固な意志を示して万全な態勢を取ったはずなのにテロは防げなかった。ならば、対テロ戦争から手を引くべきだと考え始めているフランス国民が少なからずいるんですね。
国民が何を考えているかを理解する時に役立つのが、その国で流行っている小説です。この秋に河出書房新社から出た、ミシェル・ウエルベックの『服従』という翻訳本があります。これはフランスでは1月7日、あのテロの当日に出版され、大ベストセラーになっています。
ストーリーは2022年、フランス大統領選の1次選挙で社会党と保守派が負け、ファシズムの国民戦線とイスラム原理主義者のムスリム同胞団の代表者が残り、国民は、ファシズムだけはやめようという消極的選択でイスラム政権を選ぶ。
新政権は経済政策や政治には大きな変更を加えずに、教育だけを変更する。義務教育を12歳までにして、女性が働いてもいいが、なるだけ家庭にとどまるようにする。その家庭にはサウジアラビアのオイルマネーですごい助成金が支給されるから、働かないほうが経済的にはよくなるようになる。
それと、大学教授はイスラム教徒しかなれなくなるんだけど、その代わり、引退させられた先生には定年退職時と同じレベルの年金が支払われる。同様に、一般国民にも産油国が大量に流すオイルマネーで多額の年金が払われ、フランス人は働かなくても生活できるようになるわけ。
そして一夫多妻制が導入される。フランスでは多様な形態の結婚があるし、文明は繁栄しているけれど、心の空白を埋めることができていない。そこにイスラム教が浸透してきて、フランスはじめEU諸国は徐々にイスラム化し、イスラム世界がヨーロッパから地中海に復活していく…という近未来小説です。
このような小説が今、フランスでベストセラーになっている。フランス国民の間には、ISに復讐するという国の方針に対して「もう、いいよ」の気持ちが広がっていってるんです。これはフランス社会の脆弱(ぜいじゃく)さの表れ。だからフランスではまたテロが起こりますよ。
*この続きは、『週刊プレイボーイ』51号(12月7日発売)にてお読みいただけます!
(取材・文/小峯隆生 撮影/五十嵐和博)
●鈴木宗男(すずき・むねお) 1948年生まれ、北海道出身。新党大地代表。2002年に国策捜査で逮捕・起訴、2010年に収監される。現在は2017年4月公民権停止満了後の立候補、議員復活に向け、全国行脚中!
●佐藤優(さとう・まさる) 1960年生まれ、東京都出身。外務省時代に鈴木宗男氏と知り合い、鈴木氏同様、国策捜査で逮捕・起訴される。外務省退職後は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、作家・評論家として活躍
■「東京大地塾」とは? 毎月1回、衆議院第二議員会館の会議室を使って行なわれる新党大地主催の国政・国際情勢などの分析・講演会。鈴木・佐藤両氏の鋭い解説が無料で聞けるとあって、毎回100人ほどの人が集まる大盛況ぶりを見せる。次回の開催は12月17日(木)。詳しくは新党大地のホームページへ