第3次安倍改造内閣のスローガンといえば、「一億総活躍社会の実現」だ。安倍首相の説明によれば、「一億総活躍社会」とは「誰もが家庭で、職場で、地域で、もっと活躍できる社会」のこと。
これを実現するため、昨年12月18日に閣議決定された補正予算には、「一億総活躍社会」実現への緊急対策として1兆1646億円が組まれた。
補正予算とは、本予算だけでは計画通りに政策が実行できなくなった時などに組まれる臨時の予算だ。本予算とは別の、国の“もうひとつのサイフ”といえるだろう。しかし、全国紙のベテラン政治部記者は苦笑する。
「長い間、政治部記者をやっていますが、こんなにバラバラで統一感のない予算を見るのは初めてです。『一億総活躍社会』の予算メニューを眺めると、それが本当に今必要なのか、と疑問に思ってしまうモノがたくさんあります。
その典型は、所得の少ない高齢者に3万円を配る臨時福祉給付金です。1130万人が対象のこの事業は、総額3624億円の予算を計上しました。確かに高齢者も『一億』の中に含まれるでしょう。しかし、“緊急対策”と名づけられた予算で、なぜこのバラマキが優先されるのでしょうか?」
政治評論家の有馬晴海氏はこう答える。
「高齢者に優先的に給付金をばらまいたのは、今夏に行なわれる参議院選挙のためでしょう。高齢者は高い確率で投票所に足を運び、安倍自民に票を入れてくれる。効果が一番わかりやすいところにバラマキをしたのです」
その他にも「一億総活躍」予算はチグハグが目立つモノが多い。
例えば、男性の不妊治療支援には7.1億円をぶち込む。確かに重要な支援だが、これが「一億総活躍社会」を実現するための緊急対策といわれると、ちょっと首をかしげてしまう。
さらには、「ひとり親家庭の相談窓口等の充実に必要な備品購入等」という項目もある。こちらの予算は7.7億円だ。前出の政治部記者が言う。
「厚労省によると、『相談窓口の周知や相談体制のために必要な備品の購入費用』というのですが、要するに役所内の設備を豪華にしたいだけ。ちなみに、児童養護施設の子供たちが利用できるよう、パソコンを購入する予算はわずか2億円しか計上されなかった」
子育て世代を支援したいのか、したくないのか、よくわからない。
補正予算でこうした政策を扱うのは邪道
介護離職ゼロ実現のため、サービス付き高齢者向け住宅整備に189億円、介護基盤の整備化事業に922億円なども計上されている。
しかし、介護士の離職の原因は「給料が安いから」とよく指摘される。今、政治に求められているのは、本当に箱モノを整備することなのだろうか? やはり、この予算編成には疑問を感じてしまう。
2016年度の本予算は過去最大の96兆7200億円で、補正予算と合わせると100兆円を超える。
しかし、国の債務は1千兆円を超えている。国民ひとり当たり800万円以上の借金を抱えている計算だ。なのに、ホチキス予算に3.3兆円。その原資は15年度税収の上ぶれ分1兆8990億円や14年度の剰余金2兆2136億円だ。
こんな大盤振る舞いをしていて、日本の財政は大丈夫なのか?
「そもそも、一億総活躍予算に挙げられているモノは、実現まで時間のかかる政策ばかりなんです。緊急に必要なお金を単年度扱いでつける補正予算で、こうした息の長い政策を扱うのは邪道です。本来なら、これらの予算は補正ではなく、本予算に組み入れ、国会でその使い道をしっかり論議するべきでした」(前出・政治部記者)
元財務省官僚の岸本周平衆院議員(民主党)もこう批判する。
「財政再建は待ったなしの状況です。放置すれば、そのツケはいずれ若い世代が背負うことになる。それを避けるためにも、上ぶれした税収分は本来、国の借金返済に回すべきなんです。なのに、安倍政権はその税収分をつぎ込んで、ゾンビ予算、ホチキス予算をつくってしまった。元財務官僚として、今回の補正予算を採点するとしたら『ゼロ点』です」
本当に僕たちを“活躍”させる気があるんですか!? 安倍首相! 発売中の『週刊プレイボーイ』3・4合併号では、さらにこの補正予算のでたらめな中身を徹底検証しているのでお読みいただきたい。