ロシアとトルコの衝突の背景と、アメリカで発生したテロが大統領選に及ぼす影響について語る宗男(左)・佐藤(右)両氏

鈴木宗男・新党大地代表と、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏による対談講演会「東京大地塾」。

今回は、ロシアとトルコの衝突の背景と、昨年12月にアメリカで発生したテロが大統領選に及ぼす影響についてだ。

このテロによって、大統領選でトランプ候補が支持率を伸ばしているが、もし彼が当選した場合、日本では橋下徹・前大阪市長が日本の首相になる可能性があるという。その理由は? 2015年最後の大地塾で佐藤氏が語った、2016年世界情勢の行方とは…。

■ロシアとトルコの衝突が激化すれば、世界大戦に?

鈴木 本日は2015年最後の大地塾ということで、この1年間を佐藤さんから総括していただきたいと思います。2015年は1月7日にパリで新聞社が襲撃され、11月13日にも再びパリでテロが発生しました。

佐藤 この1ヵ月の動きがかなり激しいので、順番に話をしていきます。まずはヨーロッパから。トルコ対ロシアの衝突ですが、11月24日にロシア空軍戦闘機をトルコ空軍のF16が撃墜しました。ロシア空軍のSu24戦闘爆撃機は、おそらく地上攻撃に専念するために空対空警戒レーダーを切っていて、そこをドカンと撃たれたと私はみています。

つまり、ロシアはトルコに撃たれるとは思っていなかった。なのに撃墜されたので、プーチンは今この件で怒り心頭に発しています。しかし、日本の新聞、朝日から産経まで眺めても、この事件の真相を究明した記事はどこにも載っていない。

今、トルコとシリアの国境地帯は世界中が注目しているエリアですから、アメリカのNSA(国家安全保障局)は通信傍受をしているし、偵察衛星が見てないはずがない。しかし、衛星写真も全然出てこない。なぜか? これは「同盟国のバイアス」がかかっているからでしょう。

同盟国のバイアスというのは、「同盟とそれ以外の国との間で、安全保障に関する事実関係の相違が出たら、同盟国の言っていることを正しいとして真相究明をしない」というしきたりです。同盟には同盟の作法があるわけ。

しかし、この同盟関係というのは、すごく怖い一面がある。例えば、第1次世界大戦のきっかけとなったサラエボでの事件。これはセルビアの民族主義者の青年ふたりがオーストリア・ハンガリー帝国のフェルディナント皇太子夫妻を撃った事件ですが、セルビアは弱小国だったから、この争いはオーストリア・ハンガリー帝国がひとひねりして終わりになると思われていた。

ところが、セルビアの同盟国にはロシアがいて、ロシアはフランスと、フランスはイギリスと同盟関係を結んでいた。一方、オーストリアの同盟国はドイツだった。同盟には戦争に突入しないようにする抑止機能もある一方、いったん戦争が始まった場合、自動的に参戦しなければならなくなる側面もある。こうして第1次世界大戦は始まったわけです。

今回、トルコはロシアに仕掛けられたと言っているので、トルコと同盟関係にあるNATO諸国は、トルコが正しいと見なして真相究明はしない。アメリカはNATOの同盟国であり、日本はそのアメリカの同盟国です。つまり、日本もトルコが正しいと見なすことになる。なので日本の各新聞は、トルコの言い分について真相究明しない。これは英語の新聞も同じです。

イスラム国が皆殺しになるとトルコが困る理由とは?

でも、この事件をロシア語の新聞から見ると面白い。まず、パリで行なわれていたCOP21で、プーチンは外国人記者に対して記者会見で「トルコの幹部がイスラム国からの石油の密輸に関与している。その証拠を我々は持っている」と言いました。

一方、トルコのエルドアン大統領は外国の記者からは逃げ回り、自国の記者との懇談という形でこの件に関してコメントした。それだけ見てもトルコ側の腰が引けている。しかも、プーチンは公の場で、トルコに対して「何度も何度も後悔することになるぞ」と恫喝(どうかつ)しています。

プーチンのロシア国内での支持率は90%で、ロシアでは普段からトルコは悪い国という教育を徹底してやっている。国民は「トルコを討つべし!」と戦争を容認する可能性は大いにあります。実際、ボスポラス海峡を通過するロシア海軍艦艇から、兵士が沿岸のトルコのマンションに向けて、携帯式対空ミサイルを構えて威嚇(いかく)しています。さらに先日はトルコ漁船を銃撃した。ロシアは有言実行でトルコを攻撃しているわけです。

ではなぜ、トルコはロシアと対決姿勢を取っているのか?

トルコがロシアの戦闘機を撃墜した11月24日の前日、11月23日にプーチン大統領はイランを訪問した。そして宗教指導者であり、核と弾道ミサイルの開発責任者でもある最高指導者のハメネイ師と2時間会談しました。ここで何が話し合われたか?

ロシアはイラン、フランスと三角同盟をつくって、イスラム国を皆殺しにする打ち合わせをしたと私はみています。イスラム国が皆殺しになると一番困るのはトルコです。というのも、シリアのアサド政権が生き返ると、シリアにイランが進出してくる。ペルシャ帝国の拡大です。

今、イランとトルコはシリアを草刈り場、つまり食い物にしようとしてやり合っています。しかし、アサド政権が復活してイランがシリアに入り込んでくると、トルコの出る幕はなくなる。だから、プーチンがイランを訪問したその翌日、トルコはそうさせまいとロシア機を撃墜したわけ。さっきも言ったように、同盟の論理を使われると、フランスはロシアと一緒にイスラム国を皆殺しにできなくなるから。

トルコはイスラム国が大きくなりすぎても困るけど、皆殺しになって、その後にイランが入ってくるのはもっと困る。イスラム国がそこそこの力で今の場所に残っていてくれたほうがいいわけです。

イスラム国のシノギは今、拉致ビジネスと石油の密輸ですが、拉致は大して金にならない。メインはやはり石油の密輸で、年間数千億円くらい稼いでいる。世界の石油市場の規模からすると、数千億円は雀の涙にもならないですが、その10分の1の数百億円を個人が手に入れたら莫大(ばくだい)な金額です。

ロシア側は、エルドアン大統領の三男がその金を石油密輸で手に入れてるんじゃないかと言って脅しあげてる。それに対してエルドアン大統領は反論が難しい。でも、トルコの後ろにはNATOがいるからなんとかなると思ってる。

そういう事情がわかった上で、COP21でのふたりの大統領の記者とのやりとりを見ると興味深いわけです。

ドナルド・トランプと橋下徹の共通点

■トランプ大統領と橋下総理が誕生し、世界は大混乱に!?

次はアメリカです。12月2日にカリフォルニアで、イスラム教徒の夫婦が高性能軍用小銃を乱射するというテロ事件が起こりました。

9・11はアルカイダが外で訓練したテロリストをアメリカに連れてきて起こした。ボストンマラソンのテロは数年前にチェチェンから入ってきた連中が起こした。アメリカ生まれで、アメリカ的な価値観を持った人間からテロを支援するヤツは出てきても、テロの実行犯は出てこない。悪いことをするヤツは外からやって来るというのが、アメリカの今までのコンセンサスだったんです。

ところが、12月2日のテロは完全にアメリカで生まれた人間の中から出てきた。テロリストが外から来たんじゃなく、内側で育って出てきた。これは対策の打ちようがない。つまり、共和党大統領候補のドナルド・トランプが、イスラム教徒のアメリカへの入国を認めないという理屈は意味がないし成立しないんです。にもかかわらず、この発言をしたら支持率がグングン伸びてる。

専門家はトランプは泡沫(ほうまつ)候補だと言ってるけど、もしかすると2016年の大統領選でトランプが共和党候補になるかもしれない。そうなるとトランプ対ヒラリー・クリントンの対決になります。

アメリカの大統領選は事実上「世界の大統領」を決める選挙ですから、アメリカの大統領にとんでもないのが就任したら影響が世界に伝染していく。しばらく世界のあちこちでそういう人が出てくるでしょう。で、予言しておきますが、トランプが大統領になったら、日本では橋下徹総理が誕生しますね。

橋下さんはレトリックには強いし、「僕はトリ年だから三歩歩けば言ったことを忘れる」みたいに反省機能がない。トランプさんと一緒です。政党が機能しなくなり、官僚に対する信頼もなくなると、こういうレトリックに強い政治家が出てくるというのが流れなんです。

とにかく今は、人類が我々の世代で滅亡するかもしれないというくらい、世の中が混乱してきている。世界はさらに大変なことになりますね。

●鈴木宗男(すずき・むねお)1948年生まれ、北海道出身。新党大地代表。2002年に国策捜査で逮捕・起訴、2010年に収監される。現在は2017年4月公民権停止満了後の立候補、議員復活に向け、全国行脚中!

●佐藤優(さとう・まさる)1960年生まれ、東京都出身。外務省時代に鈴木宗男氏と知り合い、鈴木氏同様、国策捜査で逮捕・起訴される。外務省退職後は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、作家・評論家として活躍

■「東京大地塾」とは?毎月1回、衆議院第二議員会館の会議室を使って行なわれる新党大地主催の国政・国際情勢などの分析・講演会。鈴木・佐藤両氏の鋭い解説が無料で聞けるとあって、毎回100人ほどの人が集まる大盛況ぶりを見せる。次回の開催は1月28日(木)。詳しくは新党大地のホームページへ

(取材・文/小峯隆生 撮影/五十嵐和博)