あちこちで炎上が広がる世界情勢に日本の備えは大丈夫か? ※写真と本文は関係ありません

年明け早々、中東の盟主を争うふたつの大国が一触即発の緊張状態に突入。従来のルールとは全く違う形で進行しているこの対立は、何かのきっかけで戦争に発展してしまう可能性も十分にあるという。

IS(イスラム国)の台頭、泥沼化するシリア内戦、トルコによるロシア空軍機撃墜…と、あちこちで“炎上”が続く中東地域にまたひとつ、超ド級の火種が生まれた。

1月2日、ペルシャ湾岸のスンニ派大国サウジアラビアが、著名なシーア派の聖職者ニムル・バキル・アル・ニムル師を処刑した。ニムル師はサウジ東部州の反体制運動のカリスマ的指導者で、騒乱を煽(あお)った容疑で2012年7月にサウジ当局に逮捕され、2014年10月に死刑判決が下されていた。

国際ジャーナリストの河合洋一郎氏はこう語る。

「この処刑に国内外のシーア派教徒たちは激怒しました。同日はニムル師以外にも、スンニ派のアルカイダ系テロリストが40人以上処刑されたのですが、シーア派教徒からすれば、自分たちの偉大な指導者がスンニ派の“チンピラテロリスト”と一緒に殺されたわけですから」

最も怒ったのはシーア派の親玉国家イランの民衆だ。首都テヘランでは抗議デモが暴徒化し、サウジ大使館へ放火する事態となった。

この事件を受け、サウジは1月3日、イランとの断交を宣言。続いてバーレーンもイランと断交、アラブ首長国連邦(UAE)は「イランとの外交関係見直し」を表明、クウェートとカタールは駐イラン大使の召還、オマーンも「湾岸諸国との連帯」を宣言…と、サウジ周辺のスンニ派湾岸諸国は瞬(またた)く間に“反イラン連合”を構築した。

ただし、これは単純な「宗派対立」ではない。前出の河合氏はこう解説する。

あと5年でサウジは財政破綻寸前!

「サウジはあらかじめ“反イラン連合”を水面下で準備していたものと思われます。ニムル師の処刑が1月初旬に行なわれたのも、昨年のアメリカとイランの核開発に関する合意に伴って、この1月中にもイランに対する経済制裁の解除が予想されていたからでしょう。

というのも、オイルマネーの印象が強いサウジですが、実は近年の原油価格下落で財政は火の車。IMF(国際通貨基金)は、あと5年でサウジが財政破綻すると予測しているほどです。この状況で、経済制裁が解かれたイランの原油が市場に大量流入すれば、さらに原油価格は下がり、サウジの没落とともに中東の覇権はイランの手に渡る可能性が高いわけです。

つまり、サウジとしてはイランの経済制裁が解除されることはなんとしても避けたい。そこで、シーア派の大物を処刑することでイランを激怒させ、意図的に緊張関係をつくり出した、というシナリオは十分に考えられます」

事の本質は「カネの問題」。過去にも中東における原油やカネの問題はしばしば戦争に発展してきただけに、今回も何やらきな臭さが漂う。

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(取材・構成/小峯隆生 協力/世良光弘)