巨額赤字に苦しむシャープに対し、7千億円規模の買収支援を提案した台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘(グオタイミン)会長は2月5日、大阪市内のシャープ本社を訪問。最終的な買収契約へ向けて協議するための合意書を交わした。
3千人以上の大リストラ、資本金1218億円から5億円への大幅減資、本社ビルの売却と、削れるものは削り尽くしても経営が改善しないことを考えると、かつての“液晶世界一”の立て直しを現経営陣に任せることは、もはや不可能なことなのかもしれない。
とはいえ、日本の家電大手8社の一翼を担い、最先端の液晶技術を持つシャープが外資に買収されるとなれば、技術流出などの影響は計り知れない。そのため、経営難に陥ると日本政府系ファンドの産業革新機構(INCJ)がいち早く再建に名乗りを上げ、当初は“国有化”でカタがつくともいわれていた。
「ほんの数週間前までは、外資による買収などあり得ないはずでした…」
そう語るのは、非政府系シンクタンクのアナリスト氏だ。
「『技術は流出させない! シャープ復活は、官民一致の日本経済再生の広告塔だ!』。そう息巻いていたのが、甘利明前経済再生担当大臣でした。INCJがまずシャープを立て直し、業界再編の下地をつくる。そして、粉飾決算で屋台骨が揺らいだ東芝、不採算部門の多いパナソニックなど大手8社を得意分野で振り分け、国際競争力のある4社に再統合する――。そんな国家的プロジェクトの青写真を描いていたんです。
ところが、旗振り役の甘利氏自身が建設会社から現金を受け取ったスキャンダルで大炎上し、辞任に追い込まれた。これでシャープは完全にハシゴを外され、放置プレイ状態となってしまったところに鴻海が買収提案を仕掛けてきたわけです」
INCJは今もシャープ支援策を取り下げてはいないが、その金額は鴻海の半分以下の3千億円。今後、多少は上乗せされたとしても、鴻海の条件を超えることは難しいだろう。日本家電業界の“復活再編プロジェクト”は白紙状態に戻ってしまったのだ。
しかし、なぜ鴻海はINCJの支援額を大幅に超える金額を出してでもシャープを買収したいのか? 彼らがシャープをどうしてもほしい理由とは…。実はその裏に中国の影があるという、まことしやかな話も。余りにもタイミングがよすぎる甘利氏の失脚に、裏で“黒幕”の思惑が働いた?
発売中の『週刊プレイボーイ』9号では、さらに今回の買収劇が引き起こす国家的損失の最悪シナリオを検証しているのでお読みいただきたい。
(取材/近兼拓史)