従業員に責任の持てない企業は即刻、市場から退場すべきという古賀氏

厚労省による多くの見逃しが発覚した厚生年金の保険料負担。

そんな杜撰(ずさん)な現状に『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は国の「なあなあ体質」があると指摘する。

***驚くべき数字だ。厚生労働省の推計で、全国で厚生年金の保険料負担を不法に逃れている民間の事業所が約79万ヵ所もあり、厚生年金に加入できずにいる人が200万人以上いることがわかったのだ。

法人事業所と従業員5人以上の個人事業所はすべて、法律で厚生年金への加入が義務づけられている。なのに、これだけたくさんの人が加入漏れになっているとは――。

加入逃れ多発の背景にあるのは、企業側の無責任さと国の「なあなあ体質」だ。

現在、厚生年金の保険料は月収の約18%ほどで、事業所と働く人が半額ずつ負担することになっている。しかし、この負担から逃れようと加入手続きを怠る事業所が絶えないだけでなく、「零細な企業に多額の保険料負担を求めると、倒産などが多発する」と、厚労省が違法な加入逃れを見過ごしてきたことが、ここまで事態を悪化させてしまったのだ。

確かに、収益力のない企業では多額の保険料の負担は大変かもしれない。だが、それは国が見過ごす理由には決してならない。

こうした企業がのさばれば、まともに保険料を納めている会社が競争で不利になり、産業の新陳代謝が滞(とどこお)ってしまう。また、多くの低・無年金者を発生させることで、日本の社会保障システム自体に大きな打撃を与えかねない。加入は法律で定められたルールであり、従業員の老後に責任を持てない企業は即刻、市場から退場すべきなのだ。

財務省の激しい抵抗が…

では、どうすれば厚生年金の加入逃れを防げるのか? 答えは簡単だ。国税庁と年金事務所を統合し、歳入庁を発足させればよいのだ。

現在、税金は財務省の外局、国税庁が管轄する国税局や税務署、社会保険料は厚労省の傘下にある日本年金機構がそれぞれ徴収を担当している。

だが、収める国民の側からすれば、徴収機関が2系統ある必要はない。なぜなら、税金も保険料も企業が天引きなどの方法で徴収し、国に納めているからだ。だったら、国税庁と年金機構の徴収部門を歳入庁として統合し、徴収を一本化すればいいだけの話だ。

国税庁は毎年の税務調査で企業の実態を細かく把握している。しかし、省庁間の縄張り争いもあり、国税庁はそのデータを厚労省に提供してこなかった。そのため、年金機構は法務局の法人登記簿を調べるなどの方法で徴収業務を行なってきたが、冬眠企業も多く、不効率極まりなかった。

だが、歳入庁で税と社会保険料の徴収を一体化させれば、もう取りっぱぐれはない。先進国で歳入庁がない国は日本くらいのものだ。

しかし、この改革には財務省の激しい抵抗が待ち受けている。歳入庁に統合すると、厚労省と財務省のどちらがそれを所管するかという争いになり、喧嘩両成敗で内閣直属の機関となる恐れが強い。

国税庁は、強制力を持って政治資金の流れを把握できるので政治家が最も恐れる機関だ。財務省としては、政治家を支配するための核心的な組織である国税庁を手放すことは絶対に受け入れられない。自民ばかりでなく民主党内閣もここには手をつけることは避けてきた。

労働者の権利と老後の生活を守るため、今すぐにでも歳入庁設立に動くことができるかどうか。安倍政権の本気度が問われている。

●古賀茂明(こが・しげあき)1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。近著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)

(撮影/山形健司)