トランプはパラノイア的な世界観に引き込まれる支持層、WWEを好む層に訴えかけるのが実にうまいと語る、モーリー氏

2007年4月、WWEのマクマホンCEOとの「億万長者対決」に勝ったトランプは、リング上でCEOの頭髪をそりスキンヘッドにするパフォーマンス

『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが語る。

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2007年4月、超人気プロレス団体「WWE」の巨大イベントに現れたドナルド・トランプは、会場に何万ドルという現金をバラまきました。“大富豪キャラ”のパフォーマンスに、ファンは狂喜乱舞します。トランプを敵視するWWEのビンス・マクマホンCEOは怒り狂い、互いの頭髪をかけた「億万長者対決」を要求しますが、代理レスラー同士の戦いはトランプ側が勝利。CEOはリングの真ん中でスキンヘッドにされ、ファンの興奮は絶頂へ…。

この時のみならず、トランプは過去、WWEにたびたび登場しています。しかも、"悪のオーナー"マクマホンを苦しめる“善玉”として。善玉とはいえ、ファンの留飲(りゅういん)を下げるためにかなり荒々しいこともやるのですが、その狡猾(こうかつ)さも多くのファンを熱狂させてきました

そして今、その世界観が米大統領選にトレースされています。共和党候補者選びでトップを走るトランプによれば、オバマ大統領もメディアも、さらには共和党主流派でさえも、すべてが“強いアメリカ”の敵。自分だけが、そんな全方位の敵と戦い続ける“勇気ある、ならず者”――。

トランプが提示するパラノイア的な世界観に引き込まれる支持層は、WWEの「大味かつ劇的な世界観」を好む層とかなりの部分で一致している。トランプはこの層に訴えかけるのが実にうまいのです。

2月末、米CNNのインタビューで、白人至上主義団体「クー・クラックス・クラン(KKK)」の元最高幹部による支持について問われたトランプ。この時、あえて明確に「拒否する」と即答しなかったあたりも、実に“プロレス的”でした。

普通の候補者なら、こんなありがたくない支持は即刻、拒否するでしょう。しかしトランプは「そんな知らんヤツのことは答えようがない」と、すっとぼけた(もちろん本当は知らないわけがないのに)。あえて「タメ」をつくり、そこにライバル候補やメディアの批判を集中させるよう仕向けたのです。

大どんでん返しで相手を愚弄する手法

狙い通りに周囲が騒ぎ立てると、トランプはすかさずツイッターで、2日前の自身の記者会見動画を紹介(CNNのインタビューと違って、その会見では元KKK幹部の支持を明確に拒否していた)。「この時の発言通りに支持を拒否する」とコメントしました。「騒いだヤツらは本当にバカだな。そんな小さなことばかり気にしているからダメなんだよ」と言わんばかりの、トランプ流の強烈な皮肉でした

あえて不謹慎な言動をとり、批判を集めておいてから、大どんでん返しで相手を愚弄(ぐろう)する。これで、(少なくともトランプの支持層には)すべては彼の手のひらの上で踊っている…という印象が強まります

また、彼はこの件で、保守層の支持を掘り起こすことにも成功しました。KKKを表立って支持することはなくても、その主張のうちソフトな面に内心、同調する白人はそれなりに多い。「支持を拒否する」と即答しなかったことで、こうした層に「トランプはわかっている」と思わせる効果はあったはずです(もちろん、これは「人種差別主義者」と呼ばれるリスクも伴いますが)。

まるでスターレスラーのような反射神経と“アングルづくり”のうまさに、人々は魅了されているのです。

週刊プレイボーイ13号(3月14日発売)では、こんなトランプ氏の性格、カネ、外交政策etc.を徹底分析! 特集「トランプでたとえてみたら、“トランプ大統領”の正体がスッキリわかった!」もお読みください!