かつてバラエティ番組の名物弁護士としてお茶の間をにぎわせた自民党の丸山和也参議院議員が、先月17日に開かれた参院憲法審査会の場で「今、アメリカは黒人が大統領になっているんですよ。(中略)これは奴隷ですよ、はっきり言って」と発言し、問題視された。
丸山氏としては「アメリカはかつての奴隷である黒人も大統領になれるスゴイ国」と言おうとしたようだが、しかし、その場で発したもうひとつのこんな自説も批判を浴びている。
「日本がアメリカの51番目の州になるということに憲法上どんな問題があるのか?」「集団的自衛権や安全保障条約は全く問題にならない」「『ニッポン州』の出身者が米国の大統領になる可能性が出てくる。世界の中心で行動できる日本になり得る」
この発言の真意はともかく、日本が本当にアメリカの51番目の州になったら、どんなメリットがあるというのか? この機会に、まじめに検証してみることにした。
まずは、日米両国の基本データを確認しておこう。アメリカの人口約3億2千万人に対して日本の人口が約1億2681万人(2016年2月の総務省推計)。アメリカが日本を「併合」するとアメリカの人口は約4億4千万人になり、そのうち約4分の1強が日本人…もとい「日系人」ということになる。
アメリカの人種別人口構成を見てみると、中南米系のヒスパニックを含めた白人が約7割、黒人・アフリカ系が約12%強といわれているので、「日系人」は黒人の実に2倍以上! 白人に次ぐ“巨大マイノリティ”の誕生だ。
ちなみに、日米の名目GDP(国内総生産)を合わせるとその額は21兆5千億ドルを超え、世界第2位の中国の2倍以上に! 文句なしに圧倒的な経済力を誇る超巨大大国の誕生である。
さらに、「ニッポン州」が誕生すれば、ついに堂々とアメリカ軍が守ってくれることになる。安倍政権が声高に叫ぶ「中国脅威論」も吹き飛んでしまうかもしれない。
もはやTPPのような貿易交渉で神経をすり減らす必要もないし、「ニッポン州」はなんだか、いいことだらけのように思えてきた…?
「実は僕、もう何年も前から『日本が51番目の州になったら』って話をツイッターとかで書いてたんですよ。丸山さんの発言はそのパクリなんじゃないかなぁ(笑)」
そう語るのは、ニューヨーク在住で最新作『牡蠣工場』が公開中のドキュメンタリー映画作家、想田和弘氏だ。
総理大臣が結局アメリカの言いなりなら…
「僕がなぜそんなことを言ったのかというと、逆説的な言い方だけど、『日本はアメリカの州』じゃないからです。沖縄の米軍基地について考えてみましょう。もし日本がアメリカの州だったら、普天間のような近隣住民への危険がある場所に基地なんて置けません。アメリカの法律では近隣住民の安全を優先しなければならないからです。
アメリカの法律に則(のっと)ると、基地を置けない場所なのに基地はある。なぜ、そんなことが可能かといえば、それは日本がアメリカの『州』じゃなくて『属国』だからです。
振り返れば、これまで安倍政権がやってきた政策の多くもアメリカの要望に応えるものでした。米軍の機密保持のために特定秘密保護法を制定し、TPP交渉では日本の農業や主権を犠牲にしてでもアメリカの要望を受け入れようとした。安保関連法案を強行採決してまで成立させたのも自衛隊を米軍の補完戦力にしたいアメリカの要望に応えるためでしょう」
この先、日本には「3つの道が用意されている」と、想田氏は続ける。
「ひとつはアメリカの州を目指す。ふたつ目は本当の意味での独立国を目指す。その場合は、日米安保条約と日米地位協定を根本的に見直して、在日米軍基地はお引き取りいただくか、存続させるなら日米が対等な立場になって、基地の近隣住民の同意を得ることが条件になる。
そして、第3の道が今の安倍政権がやっているようにアメリカの属国としての立場を深化させることですが、それでは軍事や外交面で日本に独立国としての決定権がないに等しい。
それならば、最初に言ったアメリカの『州』になったほうがいいかもしれない。少なくとも州としての自治やアメリカ人と同じ基本的人権が保障されるからです。それに人口の4分の1を占めればニッポン州出身の大統領が誕生してもおかしくない。
今の日本で、せっかく選挙して選んだ総理大臣が結局アメリカの言いなりなら、自らアメリカの内側に入り込んで、日本人がアメリカの『脳』になり、あの国を変えるという手だってあるでしょう。まあ、アメリカ人は絶対にいやだって言うでしょうが(笑)。でも、アメリカは元々『移民の国』ですから、建国の理念に立ち返って受け入れていただかないとね」
でも当然、イイことばかりではない。銃の所持が認められることによる銃犯罪の増加、国民皆保険の不備、テロの標的になる可能性…そして戦争への参加。
発売中の『週刊プレイボーイ』13号では、デメリットももちろん少なくない「ニッポン州」をシミュレーション、さらに詳細に検証しているのでお読みいただきたい。
(取材・文/川喜田 研 イラスト/服部元信)