復興予算が被災地とは直接関係のない事業に使われていた、いわゆる「復興予算の流用問題」が発覚したのは、震災から1年半ほど経過した2012年7月のこと。
誰もが被災地のために使われると信じていたお金が、全国各地の公共事業や霞が関の庁舎改修資金、円高対策、原発関連事業や調査捕鯨などに使われていたのだ。「復興」に便乗し、各省庁によって食い物にされていた事実が明らかになると、当時の民主党・野田内閣は強い批判を浴びた。そして政府は「復興基本計画」を大幅に見直したはず、だった…。
しかし、復興予算の流用は今も続いているという。2012年当時、この問題をいち早くスクープし、その後『国家のシロアリ 復興予算流用の真相』(小学館)を上梓(じょうし)したジャーナリストの福場ひとみさんに話を聞いた。
‐3・11から5年の月日が流れました。被災地の復興をどのように見ていますか?
福場 特に津波で大きな被害を受けた東北の沿岸部の復興に関していえば、ようやく一部の地域で高台移転のためのかさ上げ工事が終わったという段階で、生活再建どころか、「5年かけて、やっと一部の地域で更地ができました」というのが、被災地の現状だと思います。
‐復興庁が今年2月にまとめた資料によると、今も17万4千人が避難生活を強いられ、約6万6千戸の仮設住宅があります。復興の足取りはあまりに遅い、という印象を受けます。
福場 復興予算は当初が約19兆円でしたが、さらに膨らみ5年間で約26兆円という巨額の予算が組まれました。そのうち被災地に使われたお金のほとんどが高台移転のためのかさ上げ工事や防潮堤整備などの土木工事に使われています。被災者の生活再建に充(あ)てられたのはごく一部でしかありません。
それ以上に問題だと感じるのは、各省庁によって今もなお復興予算の一部が、被災地の復興と直接関係ないと思われる事業に流用され続けていることです。
‐復興予算の流用は、福場さんの記事で大きな問題になり、「復興基本計画」の中身は見直されたはずでは?
福場 以前に比べるとあからさまな流用は減りましたが、平成27年度の復興予算の明細書を見ると、きちんと見直されたとはいえません。例えば、防衛省の防衛復興政策費(武器車両等の購入に必要な経費ほか)として計上された316億3745万円、内閣府の沖縄教育振興事業費(公立文教施設整備に必要な経費)14億8136万円、そのほか文科省の核融合研究開発推進費や国交省の北海道開発事業費など、首をかしげてしまう事業はいくつもあります。
なぜこのような流用がいまだに行なわれているかというと、当時も問題視された「全国防災対策費」が見直されず、この5年間続けられてきたからです。これは被災地外の公共事業予算のことで、流用問題以降、原則禁止としながら実は「津波対策」や「学校の防災事業」には使ってもいいと〝例外〟を設けたのです。2012年に問題視されたスキームが今も基本的に変わっていません。
また、防衛省の航空機修理費のように額の大きなものは、流用が問題になる前にちゃっかり数年に分けて復興予算から支払う契約を結んでしまっていたのです。流用との指摘を受けていても、「一度契約したものは難しい。違約金がかかる」などの理由で継続になっているものもあります。
4月からも流用は止まらない…
‐2012年に復興予算の流用が問題になった時、当時の民主党・野田政権は批判を浴び、野党だった自民党も流用問題で民主党を厳しく追及しました。結果的にこれが政権交代のきっかけのひとつになったわけです。でも、自民党政権になってからの3年間も結局は同じだった?
福場 そもそも、2011年6月に成立した「復興基本法」は民主、自民、公明の3党合意に基づくものでした。
その成立過程で、当初は復興予算の使途を被災地に限定していた民主党案が被災地以外にも使える形に修正されたのは、「国土強靱化」を提唱していた野党・自民党の要求があったからです。「全国防災対策費」という名の下に、被災地以外でも大規模な公共事業をできるようにしたかった自民党の修正案を民主党の菅政権が受け入れたのです。つまり、当時の官邸と自民党が協力して「被災地以外への流用」が可能になるスキームをつくったといえるでしょう。
その後、政権交代で再び自民党が与党になると、安倍政権は「復興特別会計」とは別に一般会計に「復興枠」を設けて、復興・防災事業の冠(かんむり)をつけることで公共事業を積極的に行なってきました。その結果、被災地以外に使われる予算は急拡大しました。ですから、自民党政権になっても何も変わっていないどころか、復興と防災という言葉を利用して、より堂々と被災地以外での事業が進められてきたともいえるでしょう。
ところが不思議なもので、以前、あれほど批判を浴びた公共事業が「防災」という名前がつくと、国民は誰も文句を言わなくなるんですね。
‐増税までして集めた復興予算が被災地の復興とは直接関係ない多くの事業に使われ、一方で被災者の生活再建がまだまだ道半(なか)ばという現状はなんともやりきれません。
福場 政府の復興基本計画では震災からの5年間で「集中復興期間」が終わり、4月以降は「復興・創生期間」として6.5兆円規模の復興予算が追加される予定です。
そのお金が本当に被災地の復興に生かされるためには、より多くの予算と権限を「地方」に移譲する必要があると思います。そうすることで、各被災地の様々な現状やニーズに合わせて、復興を加速させるための柔軟で現実的な事業が可能になるからです。
ところが現実は、中央の官僚が予算の権限を握ったまま、大型の公共事業ばかりが優先され、被災者・被災地に関係あるとは思えない事業に復興予算が流れ続けている。これでは、4月からの予算も流用の餌食にならないとも限りません。
この状態を見逃している政治家やメディアの責任は大きい。今こそ声を上げ、流用されないためのスキームづくりを早急に議論すべきではないでしょうか。
(インタビュー・文/川喜田 研)