鈴木貴子議員の民主党離党、そして鈴木宗男・新党大地代表の自民党接近について本人、佐藤優氏が語る! 鈴木貴子議員の民主党離党、そして鈴木宗男・新党大地代表の自民党接近について本人、佐藤優氏が語る!

鈴木宗男・新党大地代表と元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏による対談講演会「東京大地塾」。

今回は、鈴木貴子議員の民主党離党問題、そして鈴木宗男・新党大地代表が安倍政権と接近している問題について、当事者が真意を語るというテーマだ。民主党から離れ、自民党にくっつくなんて、鈴木父娘は裏切り者だ!みたいな意見もあるが、真相はいかに?

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鈴木 昨年の12月28日、私は安倍総理に会いました。昨日(2月24日)も総理と30分話しました。最近、鈴木宗男の動きだとか、新党大地の立ち位置など、いろいろ話題になっておりますので、その点について佐藤さんに解説していただきたいと思っております。

佐藤 まず、鈴木貴子さん(比例北海道ブロック)が民主党を離党して、自民党に入るという説が流れてますが、自民党に移るのは法律上できません。民主党を離れることは法律的には許されるけれど、問題は道義的に許されるのかどうかなんです。

鈴木貴子さんは2014年の衆院選で、民主党比例第1位で当選したのだから離党は許されないという人がいます。こういうことを言う人は北海道の状況を全くわかっていない。というのも、14年の選挙は北海道では「民主党」と横並びで「新党大地」も入ってる。つまり、比例に投票した人たちは「民主党と新党大地」に投票したんです。

北海道では新党大地で立候補しても、ひとりは確実に当選する。これは前回も前々回の選挙でもそうだった。しかし前回、大地が民主党と組んだのは、当時、政策が一致していたからです。でも今は、その一致が難しい。一致できないなら大地に戻る。今の民主党と大地の動きはこういうことなんです。

ではなぜ大地に戻ってくることになったのか? それには4つの理由があります。ひとつは「民主党が共産党と選挙協力を行なう話が出ている」からです。鈴木先生、民主党と共産党が組むなど、想定されたことはありますか?

鈴木 全く考えたことがないですね。

佐藤 鈴木宗男疑惑が騒がれた時、外務省から出た偽文書のせいで、鈴木先生も秘書のムルアカさんも激しく非難されました。しかし、民主党の原口一博さんは、ムルアカさんを非難したことは間違いだったと、後に謝罪しました。また、社民党(当時)の辻元清美さんも鈴木先生を「疑惑の総合商社」と非難しましたが、自分も捕まるような経験をして、宗男さんに謝ってます。

ところが共産党は、志位さんが外務省からの文書をもとに「鈴木は北方領土問題を2島返還で手を打とうとした国賊である」とのキャンペーンを張りました。しかし、その内容は全くのウソで、川口外務大臣(当時)も偽文書であると認めています。それでいながら、共産党はいまだに撤回も謝罪もない。する気配もない。

そういう人が党首をやっているところと民主党が組むなら、新党大地は一緒にできるわけがない。政治の世界はいろんな戦いがあるし、対立する人間を叩くこともある。でも、ウソはダメ。そして間違えたと思ったら認めて謝罪しなきゃ。その意味において共産党は自分たちの間違いを認めたり謝ることができない人たちなんです。

共産党と組めば、必ず引き算が起きる

で、ふたつ目。鈴木先生のライフワークは北方領土交渉です。しかし、共産党は北方領土交渉においても我々と立場が違いすぎる。

北方領土とは、国後(くなしり)島、択捉島(えとろふ)島、歯舞(はぼまい)群島、色丹島(しこたん)島のことで、その返還を我々は悲願としてきました。ところが共産党は、まず北方領土という概念を認めていないんです。共産党は歯舞群島と色丹島に加え、国後島から最北端の占守(しゅむしゅ)島までの千島列島20島の全22島を返せと言っているんです。

これは無責任極まりない。日本は1951年のサンフランシスコ平和条約締結によって国際社会に復帰しました。その条約の二条C項で、日本は千島列島の領有権を放棄してる。だから共産党の主張は、この条約そのものをひっくり返せと言っているんです。

こういう無責任なことを言う党と、北方領土交渉をライフワークにしている鈴木先生が一緒にやれないのは当然でしょう。

もし志位さんが、改竄(かいざん)文書で非難したことを謝罪し撤回する、さらに北方領土に関しても無責任な主張を改めるならば考え直す余地はあるかもしれない。しかし、共産党はそれはやらないでしょう。

理由その3は、選挙で共産党と組めば、共産党票が足し算されて得票数が増えると思う人がいるんですが、実際はそうじゃない。必ず引き算が起きます。

鈴木 はい、その通りですね。2015年4月の北海道知事選で、私は佐藤のりゆき氏を担ぎました。民主党道連代表の横路孝弘さんは彼のことが大嫌いだったんですが、私がなんとか口説いて推薦をいただいたんです。

それが、選挙前の2月頃に佐藤と共産党が裏でくっついているという話が出てきて、共産党も佐藤支持についた。そこで私は手を引きました。結果は自公推薦の現職・高橋はるみさんに35万票差で惨敗。共産党がついたことで、保守票が逃げたんです。実際、札幌市長選は共産党が独自候補を立てたので、私の支持した秋元さんが勝ちました。

佐藤 そして理由その4です。先生、北海道の公明党票はどのくらいありますか?

鈴木 25万ですかね。

佐藤 大地は?

鈴木 35万から45万ですね。

佐藤 両方足すと60万から70万になりますね。北海道では大地・公明にそっぽを向かれた政党は、小選挙区では全滅になる。大地・公明は北海道ではキャスティングボートを握る政党として機能できるんです。

今回の動きは、北海道ブロックでの新党大地の力を示すものだと思う。仮にこの2党がくっつくことになったら、北海道の政治事情は変わるだろうし、もしかすると日本の政界再編のきっかけにもなるんじゃないかなと、私は非常に楽しみにしているんです。先生、どうでしょうか?

ウンコを加えてブレンドするとは…

鈴木 佐藤さんの最初の話にあった鈴木貴子の件ですが、2014年の衆院選は、小選挙区(北海道7区)では自民党候補に225票差で敗れ、北海道の民主党比例の1位で当選しました。

知っておいてほしいのは、北海道で民主党と新党大地が選挙協力を行なった時、民主党の玄葉光一郎選対委員長は「大地には35万票がある。この実績に敬意を表し、鈴木貴子を比例の単独1位にします」と言われたんです。

大地は北海道では単独でもひとりは当選できるんです。そういう意味で、惜敗率で上がった議員とは違うことを皆さんにはおわかりいただきたいなと思っております。

佐藤 通常、比例で当選した人の政党移動は禁止されています。無所属になるのも私は、基本は×だと思います。法律的に問題がなくても道義的には×です。ただ北海道の場合は、単なる民主党の代表を選んだんじゃない。「民主・大地」なんです。選挙ポスターも民主と大地は並んでいました。

これはコーヒーにたとえるとブレンドなんです。キリマンジャロ民主とモカ大地。2種類の豆をブレンドした理由は、国政を大地だけで戦うよりも民主党と組んだほうが北海道のためになると判断したからです。

ところが今回、そのブレンドをやめて、我々はもう一回モカだけでやりますとなった。理由はそのブレンドに最初は入っていなかった共産党が入ってくる話になったから。ブレンドコーヒーにウンコが入れば、それがたとえ少しであっても、全体がウンコになってしまう(笑)。

モカにしてみれば、まさかキリマンジャロがウンコを加えてブレンドするとは思っていなかった…。まあ今になって考えると、ブレンドにすれば両方のお客さんを取れると思ったのは、反省材料にすべきでしょうね。

それはともかく、民主党が共産党と簡単に組むのは、民主党に思想がないからだと思います。なので今度は維新と一緒になる。民主党は民意を単なる数としか思っていない。少しでも数が取れれば、自分たちが正しいと思ってる。

民主党は秀才が集まりすぎたんでしょうね。そのせいで民主党から出てくる政策は冷たくて魅力がない。子供の貧困対策にしても、貧困率を下げると言って数字を追いかけているだけで、結局はお金のばらまきです。

自民党は自民党で国民の「自助努力」に頼りすぎてるし、民主党は国や自治体が助ける「公助」ばかり言う。一方、新党大地のベースにあるのは「共助」、助け合いです。誰かが困っていたら、お互いさまで助け合うっていう。そろそろ民主党の、学校の秀才を中心とした官僚的な発想、極度に合理主義的でお金で物事を解決する考え方とは決別する必要があると思います。

その意味で、新党大地の土着的で健全な保守性で日本を立て直していく、今はそのチャンスだと思いますね。

●鈴木宗男(すずき・むねお) 1948年生まれ、北海道出身。新党大地代表。2002年に国策捜査で逮捕・起訴、2010年に収監される。現在は2017年4月公民権停止満了後の立候補、議員復活に向け、全国行脚中!

●佐藤優(さとう・まさる) 1960年生まれ、東京都出身。外務省時代に鈴木宗男氏と知り合い、鈴木氏同様、国策捜査で逮捕・起訴される。外務省退職後は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、作家・評論家として活躍

●「東京大地塾」とは 毎月1回、衆議院第二議員会館の会議室を使って行なわれる新党大地主催の国政・国際情勢などの分析・講演会。鈴木・佐藤両氏の鋭い解説が無料で聞けるとあって、毎回100人ほどの人が集まる大盛況ぶりを見せる。次回の開催は3月24日(木)。詳しくは新党大地のホームページへ

(取材・文/小峯隆生 撮影/五十嵐和博)