日本の武器が他国の人間を殺すかもしれない――。これまで武器の輸出を控えてきた日本だが、遂にそれが実現してしまうかもしれないのだ。
その武器輸出を目指す安倍政権に対して、『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は、“悪魔の成長戦略”と危惧する。
*** オーストラリア軍は今年中に12隻の潜水艦を共同開発・生産するパートナーを決める予定だが、日本の三菱重工が建造する「そうりゅう型」潜水艦が、ライバルの独仏メーカーを抑えて採用されそうだ。受注額は設計、建造、メンテナンスを含めて4兆4千億円。交渉の過程で値引きされるだろうが、それでも「超巨大案件」と言ってよい。
もし「そうりゅう型」に決まれば、2014年4月に導入された「防衛装備移転三原則」に基づく、日本初の兵器本体輸出となる。
憲法9条で戦争放棄をうたう日本は、他国への武器輸出を控えてきた。しかし、安倍政権はその国是を転換。閣議決定でそれまでの「武器輸出三原則」をなくし、武器や軍事技術を海外に輸出できる「防衛装備移転三原則」に変えてしまった。
閣議決定当時、世論を懐柔したい安倍政権は「輸出するのは、救難飛行艇や軍用救急車など、戦地で人命救助任務に使う『防衛装備』が中心になる」と、しきりに釈明していたものだった。
ところが、いざふたを開けてみると、なんのことはない。初の大型受注案件として浮上したのは、戦略的兵器とされる最新鋭の潜水艦だったというわけだ。
この一件だけではない。すでに昨年10月に「防衛装備庁」が新設され、官民で開発した武器を海外に売る窓口となった。また、武器輸出ビジネスに貿易保険が適用できるよう、政府内での調整も続いている。こうした動きを見る限り、日本の武器輸出はさらに加速するはずだ。
経済恩恵の裏には人の死が
以前、私はフランスの国営放送で、こんなニュース番組を見て鼻白んだことがある。
「ラファール」というフランスの国産戦闘機がさっぱり売れない。14年の生産はわずかに11機で、開発した仏ダッソー社は苦境に立たされ、「世紀の大失敗」と批判されていた。
ところが15年になると、カタール24機、インド36機、アラブ首長国連邦60機など大型商談が相次ぎ、あっという間に黒字転換を確実にしたという。
ニュース番組は、経営者や従業員だけでなく、地域住民の喜びの声を伝えた後、メインキャスターが「ラファールが急に売れ始めたのはなぜか」と聞いたのに対して、リポーターが次のような趣旨の回答をした。
「ラファールがシリアなどで高い空爆性能を証明したからです」
イスラム国を的確に空爆するシーンを見て、各国から発注が殺到した。おかげでフランス国内に新しい雇用が3千人生まれたというわけだ。その口調に自国の武器が他国の人々を殺傷しているという罪悪感はかけらもなかった。
これと同じ道を日本は歩もうとしている。安倍政権は武器輸出をアベノミクスの成長戦略にこっそりと位置づけているが、これは“悪魔の成長戦略”だ。
安倍政権は恐ろしい政権だ。しかし、もっと恐ろしいのは、巨大な経済的恩恵に目がくらんだ国民が武器輸出を望むようになり、日本がますます“戦争をする国”に向かうことではないだろうか。日本人は一度立ち止まって考え直すべきだ。
●古賀茂明(こが・しげあき) 1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。近著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)
(撮影/山形健司)