田中一寿さん 87歳。1959年、旧色麻村議(当時)に初当選。以後、宮城県色麻町で半世紀以上、町議を務める 田中一寿さん 87歳。1959年、旧色麻村議(当時)に初当選。以後、宮城県色麻町で半世紀以上、町議を務める

鉄人は色麻町のビッグダディだった!

当選16回、在職期間は実に55年11ヵ月! 今年1月、自身が持つ現職最多・最長の日本記録を更新したのが宮城県色麻町(しかまちょう)の田中一寿ひとし町議会議員(87歳)。

一体、どんな人物なのか? 直撃インタビューを敢行するため、まずは電話で取材依頼を試みたのだが…。

「もしもし田中さんですか」

「田中です! もしもし! もしもーし! ……さっぱり聞こえねぇナァ?」

田中議員への取材はアポ入れ段階から難航。電話口で大声を張り上げても、全く声が届かないようなのだ。

「もしもし! 週刊プレイボーイです! インタビューしたいです!」

「もしもーし! 耳が遠いので大きな声でお願いしますよ! もしもーし! なんだ? 誰もいねぇのかナ?」

「あっ、電話切らないで!」

「はい! 私が田中です!」

「聞こえますか!」

「聞こえません!」

「ぜひお会いしてお話を!」

「あー! どうぞどうぞ!」

大音量で応酬を続けた結果、ようやくアポが取れたので記者は色麻町へ。

色麻町は宮城県中西部に位置する人口約7千人の町だ。田園風景が広がるこの地には古くから“かっぱ伝承”があるため、町のキャッチフレーズは“かっぱのふるさと”。田中議員が会長を務める運送会社を訪ねると、笑顔で迎えられた。

共産党員から自民党員へ

 宮城県中西部に位置する色麻町は人口約7000人の町。田園風景が広がるこの地には古くからかっぱ伝承があり、“かっぱのふるさと”とうたっている。町のあちこちにはかっぱの像が! 宮城県中西部に位置する色麻町は人口約7000人の町。田園風景が広がるこの地には古くからかっぱ伝承があり、“かっぱのふるさと”とうたっている。町のあちこちにはかっぱの像が!

「どうも! 私は帝国海軍の出身だからトラックには全部、日本海軍の軍艦の名前をつけているんですよ」

噂どおり、お達者だ。

「私は小学校を出て、すぐに帝国海軍に行ったの。敗戦時は軍艦天草の砲兵でした。天草は1945年8月9日午前10時15分、女川(おながわ)で連合艦隊の爆撃に遭って轟沈(ごうちん)。乗組員230名中158名が戦死しましたが、私はその生き残りです」

田中議員の勢いに押されながら、こちらも聞いた。

―なぜ政治家に?

「私は“水のみ百姓”のこせがれで、元々は共産党員。最初は『貧乏人を豊かにするには議会に出なくては』と思って26歳で選挙に出ました」

―当時は共産党議員?

「共産党員の時は議員やってません。今は自民党員です」

―えっ、なんでですか!?

「昔、共産党は国際派と主流派が内部で争った時があってね。その時、『我々は地方の民衆と一生懸命運動しているのに、何が内紛だ』と私から脱党を宣告したんです。そうしたら中央委員会から人が来て『反省しろ』と。私が『我々は働きながら運動している。てめえらみたいにソ連から金もらって運動しているんじゃないぞ!と文句を言ったら、近所に畳一枚分ぐらいの大きな張り紙を貼られて除名処分になったの。それからは一切関係していません」

―なかなかハードなお仕置きですね…。それがなぜ今は自民党に?

「私は中小企業のオヤジだから安倍晋三内閣総理大臣には共鳴してないの。でも、竹馬の友である山田康雄くん(町議)が自民党色麻町の支部長だから、彼を支えるためにね。彼のおじいちゃんも昔、村長で…(以下、省略)」

―まさに生き字引ですね。

「長生きしていると面白いね。ひ孫も24人いますよ

―色麻のビッグダディじゃないですか!

「え? 今、なんて? 私は5人の子供に恵まれました。孫は15人。もうすぐ玄孫(やしゃご)を見ることもできるかも」

当選し続けられる選挙運動とは!?

―当選16回、在職期間55年11ヵ月。一体、どんな選挙運動をすれば当選し続けられるのですか?

「各集落を訪問して『また立ちますからお願いしますと言うこれだけです! あとは議会の活動をちゃんとすること。議会での一般質問は一度も欠かしたことがありません」

実は色麻町では50年以上、有線放送で議会を中継している。地元のある議員は、「町民はずっと有線放送で田中さんの議会質問を聞いてきた。ズバリ物を言う人だから『あの人が議会にいないとダメだ』という声は多い」と言う。

―55年の議員生活で心がけてきたこととは?

「私は曲がったことに賛成したことはありません! 元々は共産党だったから、ひとりでも反対してきました。だから今日がある。でもそれも今回で終わりかなぁ」

―次はもう選挙に出ない?

「その時になったら考える。今は読書が好き。今日も週刊現代のエロな写真を見て若返っておりました

―エロはお好きですか。

「はぁ?」

突然、首をかしげ、耳に手を当てて聞こえないポーズを取る。わざとなのか本気なのかわからない。

―ところで、さっきからずっとブブブッと音がしているのはなんですか?

「マッサージ器を足元に置いてんの! 血の巡りがよくなるから。健康には注意しています。酒は飲まない。うちは子供も孫も全員、色麻にいるけど、財産は生前贈与したし、公正証書を作って問題が起きないようにしてある。いつ死んでも大丈夫。ところがなかなか死なねえんだな(笑)」

―耳が遠くて議員生活に支障はないのでしょうか?

「はぁ?(耳に手)」

―お耳、大丈夫ですかー?

「補聴器があるから大事な時はつける。今はつけてない」

―つけてくださいよ!

「都合の悪い時はつけないで聞こえないフリするんだ、アハハハハ」

有権者としての意識を持ち、目覚めた投票をしてほしい

 インタビュー中、何度も首をかしげ、聞こえないポーズを取る田中さん。わざとなのか本気なのかわからないあたり、さすがである インタビュー中、何度も首をかしげ、聞こえないポーズを取る田中さん。わざとなのか本気なのかわからないあたり、さすがである

―ところで色麻町にはかっぱ神社がありますね。

「そう。大和朝廷の蝦夷(えぞ)征伐の時からあるんです」

―田中さんレベルになると、きっと一度はかっぱに会ってますよね?

「それはないです」

―これだけ当選を重ねてるのって、こっそりかっぱに献金してるんじゃないですか?

「ないない。かっぱはあくまでも昔話ではないスか?」

―じゃあ、甘利(あまり)明前大臣みたいに口利きしたことは?

「私もああいうことすればよかったけど、しなかった」

―宮崎謙介元議員みたいな女性問題もありませんか?

「なんであんなバカなことするのかな。私のように教育勅語を受けた人間は世間にバレることはしません! 私も昔は○○に××をつくって…

―言わないでいいですよ、書いちゃいますよ!

「まぁ、そんなこんなを経て今は立派なもんでがす!

―ズバリ聞きますが、田中さんはかっぱですか?

「かっぱじゃない! 人間です! まぁ、『バケモノ』とは言われっけどもね(笑)」

―最後に、今年から18歳にも選挙権が与えられますが、今の若い人たちにひと言お願いします。

「安倍さんがやってることは、中小企業や庶民をイジメること。国民に迷惑をかけてる自民党に、どうして圧倒的な支持を与えているの? 有権者としての意識を持って、目覚めた投票をしてほしいね」

ありがとうございました!

(取材・文・撮影/畠山理仁)