鈴木宗男・新党大地代表と、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏による対談講演会「東京大地塾」。
今回は、民主党と維新の党が合併してできた「民進党」誕生の話、「日本死ね」で話題になった保育所問題から見える日本の現状についてだ。
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鈴木 「民主党」と「維新の党」が合流して「民進党」となりました。これは党名候補をふたつ出して、世論調査で決めたとのこと。こんなやり方で政党名を決めるところが、果たして政権を担って、政治に責任を持つことができるのか? 佐藤さんの分析を伺いたいと思います。
佐藤 「民進党」と聞いて、最初、台湾の政党かと思いましたね(笑)。政党名は、まさに政党の「顔」です。今回の民進党は、維新と民主の間で話をして折り合いがつかないから、最後は世論調査で決めたというんですが、同じ党の同志であり身内相手に折り合いがつけられない人たちが、国会で他の政党と折り合いがつけられますか?
世論調査で自分たちの名前を決めるなんて、本当に悪い意味での丸投げ。これは世論の尊重でもなんでもない、ただのポピュリズムですから。
鈴木 政党をつくる時は、理念は何か、主張はどうするかを先に考えるのが筋ですね。今回の民進党は、合流ありきの数合わせをしてるとしか思えません。
佐藤 そういう意味では、民主党と維新の党の実態が見えたと思います。あの人たちには特にやりたいことがない。少なくとも自民党には権力を維持したいという思いがある。権力がないとやりたいことはできないから、権力に固執しない政治家はやりたいことのない最低の政治家なんです。
それと民進党でもうひとつ。先日、国会で山尾志桜里(しおり)センセイが、「保育所落ちた、日本死ね」という出所のわからないネット空間の意見をもとに質問しました。安倍総理は「出所がはっきりしないものに対して、答えられない」という趣旨の答弁をしましたが、これ、何か問題がありますか?
どこかの政党は偽メール問題で大変な目に遭(あ)ったのに、その政党が出所のわからないインターネットをもとに質問をする。しかも、ここで問題なのは、公共圏で政治家が使っていい言葉と悪い言葉があるということ。先生、国会の場で「死ね」というワードを使って質問が出てきた記憶がありますか?
鈴木 これ、日本の憲政史上初めてだと思いますね。
なぜ政府・自民党は「日本死ね」で動いたのか?
佐藤 自民党の保育所に対する政策は大変問題があるし、責任は大きいです。こういう政策をないがしろにしてきたから、今回、大きな騒動になっている。しかし、それと、「死ね」という言葉を公共圏で使って政策を動かしていいのかは、分けて考えないといけないと思う。「死ね」って他者の存在を否定することだからね。
ただし、保育所の問題については、新聞やTVがいろんな特集やっても、陳情があっても、今まで政府・自民党は馬耳東風(ばじとうふう)だったけど、今回は動いた。
なぜか? ネットの声が怖いんですよ。民進党の党名世論調査にしても、保育所の問題にしても、今の政治は匿名の発言に過剰に反応している。
これに関してどう考えるべきか? 私は4月発売の『文藝春秋』で、今こそルース・ベネディクトの『菊と刀』を読み直すことが必要だと書きました。
この著者は、アメリカ・コロンビア大学の有名な文化人類学者で、太平洋戦争中にCIAの前身、OSS(戦略情報局)から「日本人とはどんな連中なのか調べろ」と言われてこの本を書いた。
それで浮かび上がったのは、日本人は浮世絵や生け花、茶の湯などをやって礼儀正しいんだけれども、同時に切腹や赤穂浪士みたいに討ち入りや私闘をやる。花の命を大事にするのに、人が死んだり人を殺すことには躊躇(ちゅうちょ)しない。このふたつがなぜ同居しているのか?ということだった。
この答えの鍵は、日本人には「応分(おうぶん)の場」「分相応」という発想があるということ。
例えば、殿様は年貢を取ってもいい。でも、苦しい農民がいたらきちんと助ける、領民の面倒を見る。これなら応分の場を守っていて文句が出てこない。
しかし、殿様が家臣や部下の侍に対して、小ばかにして嘲笑(ちょうしょう)するようなことを言うと、忠誠を誓っていても、よくも侮辱したなと刀を持って切りかかる。農民も百姓一揆で殺せー!となる。
日本人はそういう応分の場の間合いを、理屈ではなくそれぞれ持っている。政治家も作家も、マスコミも農民もそれぞれのプロ集団が応分の場という袋に入っていて、その袋の中できちんとやらなければならない。しかし、今はその袋が破れて混乱が起こってる。何をどうすればいいかワケがわからなくなってきているんです。
国会という場で「日本死ね」という乱暴な言葉が出てくるのは、その混乱の兆候でしょう。
だから今、すごいマグマが日本の中にたまりつつある。これはもう文化人類学的な視点まで幅を広げて見ないと、根本原因が見えないと思う。
■この続きは、明日配信予定!
●鈴木宗男(すずき・むねお) 1948年生まれ、北海道出身。新党大地代表。2002年に国策捜査で逮捕・起訴、2010年に収監される。現在は2017年4月公民権停止満了後の立候補、議員復活に向け、全国行脚中!
●佐藤優(さとう・まさる) 1960年生まれ、東京都出身。外務省時代に鈴木宗男氏と知り合い、鈴木氏同様、国策捜査で逮捕・起訴される。外務省退職後は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、作家・評論家として活躍
●「東京大地塾」とは? 毎月1回、衆議院第二議員会館の会議室を使って行なわれる新党大地主催の国政・国際情勢などの分析・講演会。鈴木・佐藤両氏の鋭い解説が無料で聴けるとあって、毎回100人ほどの人が集まる大盛況ぶりを見せる。次回の開催は4月28日(木)。詳しくは新党大地のホームページへ
(取材・文/小峯隆生 撮影/五十嵐和博)