米大統領選の共和党指名候補争いでトップを走るドナルド・トランプが3月下旬、ニューヨーク・タイムズ紙の取材に対し、北朝鮮の核の脅威に対抗するための「日本の核武装」を認める発言をした。
日本では冷静な議論が難しいテーマだが、実際のところ、その可能性はあるのか? 感情論、倫理論を極力排し、あくまで技術(テクニカル)的に考えてみよう。
実は、この問題に注目しているのはアメリカだけではない。昨年10月の核軍縮を話し合う国連総会の第1委員会で、中国の傅聡(フーコン)軍縮大使は「日本が保有する核物質は核弾頭1千発分以上だ」と日本を牽制(けんせい)した。この発言について、軍事アナリストの毒島刀也(ぶすじまとうや)氏が解説する。
「日本では原子力発電所の運用に伴い、燃料ペレットにプルトニウム(以下、PU)を混ぜる『プルサーマル』を行なっています。中国の指摘は、それに関連して日本が保有している47.8tのPU(内訳はイギリスとフランスの再処理工場にある37t、青森県六ヶ所村の未稼働の再処理施設にある10.8t)を指しているのでしょう」
これだけのPUを保有する日本がもし核爆弾をつくるなら、濃縮に大量の電力が必要な「ウラン型」ではなく、「プルトニウム型」になるという。エネルギー消費が少なく、短時間で生成できるのが特徴だ。
「国内にあるPUの量を、高濃度の『兵器級』に置き換えると4.78t(=すべて濃縮して弾頭化すれば約1200発分となり、その点では中国の指摘は正しい)。これを高速増殖炉の実験炉である『常陽』と『もんじゅ』から取り出せば、技術的には核爆弾の作製が可能です。ただし、どちらも水に触れると激しく反応するナトリウムを冷却材に使う炉なので、作業には大変な危険が伴います」(毒島氏)
また、核爆弾(弾頭)を搭載するミサイルも開発しなければならない。2013年に日本が打ち上げた固体燃料式ロケット「イプシロン」は、技術的にミサイルへすぐ転用可能との声もあるが、実際のところはどうなのか?
「イプシロンは1基30億円と高価な上、重量分布が一様な衛星を打ち上げるためのものなので、分布の偏(かたよ)った核弾頭を運ぶには再設計が必要です。さらに、アメリカや中国と違って国土が狭い日本では、敵に発射場所を探知されない『核地下サイロ』をつくることは不可能といっていいでしょう」(毒島氏)
原子力潜水艦を導入する選択肢も?
となると、もし日本が核兵器を運用するなら、広大な海洋で敵に探知されずに、核搭載ミサイルを運べる原子力潜水艦を導入するしか選択肢はない。トランプ発言では、日本の核保有は在日米軍の撤退、あるいは大幅縮小とセットなので、在日米軍に対する年間約2千億円の「思いやり予算」が浮けば、原潜の導入も予算面では可能だ。
米軍事系シンクタンクで戦略アドバイザーを務める北村淳(じゅん)氏はこう語る。
「イギリスのように自前で原潜をつくり、アメリカからトライデント潜水艦発射ミサイルをレンタルする。そして、米海軍将校が原潜に乗り込んで、核ミサイルを米軍管理下に置く形で共同運用するーー。この形なら、“アメリカが容認する日本の核保有”の可能性はあると思います」
また、国際社会にはイスラエルのように、核兵器を保有しているか否かを明らかにしない“グレーゾーン型”の戦略をとる国もある。
「イスラエルはかつて南アフリカと共同で核開発を行ない、原潜ではなく、ドイツから輸入した潜水艦を改造した通常型の『ドルフィン級潜水艦』5隻で核兵器を事実上、運用しているとみられています。核弾頭はポップアイ・ターボ巡航ミサイルに搭載され、有事となれば周辺国に発射する“最終兵器(リーサルウエポン)”となっています」(前出・毒島氏)
発売中の『週刊プレイボーイ』18号では、さらにこの“核武装”議論を深めつつ、核ミサイルをめぐる中国と北朝鮮の最新動向と今後想定しうる“最悪の事態”を大検証。そちらも是非お読みください。
●『週刊プレイボーイ』18号(4月18日発売)『日本・中国・北朝鮮 東アジア同時多発“核ミサイル危機”』より。
(取材・文/世良光弘、小峯隆生)