韓国に米軍が新たに配備する予定のTHAAD。迎撃ミサイルそのものよりも、レーダーの覆域の広さを中国は嫌がっている(写真資料:アメリカミサイル防衛局)

恫喝的なミサイル発射と核実験の強行を繰り返す北朝鮮。不気味なほど静かにミサイル増強を続ける中国。そして突然、トランプ発言などで降って湧いた日本の「核武装」議論…。

今、東アジアがが大きく揺れている中、週刊プレイボーイ』18号では核ミサイルをめぐる中国と北朝鮮の最新動向と今後想定しうる“最悪の事態”を大検証している。

「迎撃」と口で言うのは簡単だが、相手はマッハ以上の速度で迫りくるミサイルだ。日・米・韓陣営は、敵のミサイルを無事に撃ち落とせるのか?

■絶対的に“手数”が不足している

北朝鮮がミサイル発射実験を予告すると、日本各地に航空自衛隊の地対空ミサイルシステム「PAC-3」が配備。さらに日本海には弾道ミサイル迎撃システムを備えた海上自衛隊のイージス艦が展開するーー。これが日本の基本的なMD(ミサイル・ディフェンス)体制で、中国に対してもほぼ同じ陣容で臨むことになる。

ただし、間もなくここに新たな“味方”が加わる。4月11日、米カーター国防長官が、韓国に「THAAD(サード)(終末高高度防衛)ミサイル」を配備すると明言したのだ。航空評論家の嶋田久典氏が解説する。

「THAADは射程約200kmで、基本的には在韓米軍を北朝鮮のスカッドミサイルなどから守るための兵器です。ただ、実はこれに最も不快感を示しているのが中国なのです」

対北朝鮮の迎撃ミサイルをなぜ中国が警戒するのか? その理由はTHAADの高精度なレーダーにある。

「THAADには日本やグアム、米本土へ向けて中国から発射された弾道ミサイルを迎撃する能力はありません。しかし、そのレーダーは覆域(ふくいき)500kmから1000kmといわれ、この範囲には中国東北部も含まれます。

中国としては、今までは中距離弾道ミサイルで日本ヘ奇襲攻撃を仕掛けられたのに、THAADが韓国に配備されると、ミサイルの動きを早い段階で探知されてしまう。そうなれば当然、日米のイージス艦やPAC-3の迎撃精度も高まってしまう…というわけです」(嶋田氏)

大量の巡航ミサイルには完全にお手上げ状態?

ただ、これで中国のミサイルも怖くない…とはならない。そもそも、日本のMD体制は絶対的に“手数”が不足しているからだ

米国防シンクタンクの戦略アドバイザー・北村淳氏はこう指摘する。

「仮に、海自のイージス艦6隻が各艦8発のSM-3迎撃ミサイルをフル搭載し、幸運にもすべて迎撃態勢をとっていたとしましょう。迎撃時には1発の弾道ミサイルに対し、2発のSM-3が発射されるので、全艦合わせて48発のSM-3が迎撃できる弾道ミサイルは最大24発。6隻のイージスシステムが素晴らしいデータリンクをして、重複攻撃などが一切起こらなかった場合でも、25発目以降の弾道ミサイルは日本の目標めがけて飛んでいきます

こうした“撃ち漏らし”の迎撃は、陸上に最大18ヵ所設置されるPAC-3に望みを託すしかないわけですが、残念ながらPAC-3の迎撃エリアは20~30km圏と極めて狭い。中国軍は当然、そこを外して目標を設定してきます。政府機能などの重要地点は守れたとしても、日本全土をすべて守るなどというのはあり得ない話です」

さらに言えば、これは弾道ミサイルに限った話。大量の巡航ミサイルには完全にお手上げ状態だ。しかも当然、実戦では北朝鮮のミサイル実験のように「今から撃ちますよ」などと予告してくれるはずもない。

日本のMD体制は“鉄壁”なのか? 残念ながら、とても自信を持って「YES」とは言えそうにない…。

(取材・文/世良光弘 小峯隆生)

●『週刊プレイボーイ』18号(4月18日発売)『日本・中国・北朝鮮 東アジア同時多発“核ミサイル危機”』より