不正発覚しブランドの信頼が底についた三菱自動車。これからの行く末は…

燃費データの偽装が発覚し、波乱を呼んだ三菱自動車。

日産の子会社化が決定したが、行政や三菱グループが守ろうとすれば、日本経済の衰退に繋がると『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は糾弾する。

***軽自動車の燃費データを偽装した三菱自動車が大ピンチだ。

燃費をごまかすメーカーが信頼されるはずがない。発覚の直後から顧客離れが続き、三菱自の4月の軽自動車販売は対前年比44.9%減になってしまった。

不正の代償は販売不振だけではない。実際の燃費が明らかになれば、三菱自の軽自動車はエコカー減税の対象外になる可能性が高い。その場合、購入者は国や地方自治体に減税分を返還することになり、三菱自がその費用を負担する。

また、燃費偽装で余計にかかったガソリン代、イメージダウンによる中古車価格の下落分なども補償しなくてはならない。それらを合計すると、2017年3月期に1500億円の特別損失(野村證券試算)が発生するとの予測もあるほどだ。

昨年9月にディーゼル車の排ガス不正問題を起こした独フォルクスワーゲン社は米国内で販売した約50万台を買い取る羽目になった。その費用は1兆円を超えるとされる。もし同じように三菱自も不正車の買い取りを迫られることになれば、特別損失はさらに膨らむ。そうなれば、債務超過などの経営危機になるのは確実だ。

そんな落ち目の三菱自を支えようと動く3つの勢力がある。

ひとつは国交省、経産省などの行政機関だ。一定の行政処分を科し、そこそこの補償を実行すれば、それでよしという構えだ。三菱自の経営の屋台骨を揺るがしかねない燃費偽装対象車の買い取りを迫るようなこともない。年間売り上げ2兆円、連結社員数3万人の大企業を潰(つぶ)すと雇用が失われ、社会が混乱するというのがその理由である。

国にも影響力のある“金曜会”とは

もうひとつは総売り上げ58兆円、今や世界最大の企業集団にのし上がった三菱グループだ。「三菱ブランド」を死守すべく、「金曜会」(三菱系29社の会長、社長を会員とする親睦組織)を中心に三菱自を支援しようという動きが浮上しているのだ。

「金曜会」は00年、04年のリコール隠しで三菱自が経営危機になった時にも、ご三家の三菱重工、三菱商事、三菱東京UFJ銀行が中心となり、5400億円の支援を実施している。

国交省と経産省が事を荒立てずに済まそうとする裏には天下り先を提供してくれる三菱グループへの配慮もある。金曜会の力は絶大なのだ。

さらに、マスコミの一部もこれに加担している。あるTV局では、報道局長が大口スポンサーである三菱自を強く批判するテロップを修正させたということが話題になった。

だが、データ偽装は詐欺であり、犯罪行為だ。しかも三菱自には2度のリコール隠しの「前科」がある。その際には神奈川、山口で2件の死傷事故も発生した。その前科を反省せず、不正を繰り返す企業は市場から退場させるべきではないか?

三菱自は軽自動車の購入客に説明会すら開いていない。その一方で部品メーカーなど下請け企業には早々と説明会の実施を表明した(その後、批判を浴び、延期)。この行動からもわかるように三菱自はユーザーの被害回復には極めて冷淡だ。そんな倫理感に乏しい企業を行政と三菱グループと一部のマスコミが支えようとしている。

これらの勢力は市場から退場を通告された企業の庇護をやめるべきだ。ダメ企業の存続を許せば、日本経済は衰退する。

「金曜会」も法令違反を重ねる三菱自への支援は慎むべきだろう。人々に三菱グループへの疑念を抱かせるだけだ。

◆月曜発売の『週刊プレイボーイ』22号ではこの三菱グループの強大な影響力と歴史、そして「金曜会」の存在を特集「三菱自動車問題と三菱帝国の行方は〝金持ち威厳おやじ〞と〝不良ボンボン〞にたとえ たら、すっきりわかる!」で詳説。こちらもお読みいただきたい。

古賀茂明(こが・しげあき)1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。近著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)

(撮影/山形健司)