自民一強の政界に新たな政治団体「国民怒りの声」が立ち上がった。
『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は同団体に期待を寄せるがーー。
*** 7月の参院選に向けた、新しい政治の動きである。小林節(せつ)・慶應義塾大学名誉教授ら、市民グループが政治団体を立ち上げたのだ。
団体名は「国民怒りの声」。基本政策は「憲法改悪の阻止」「戦争法の廃止と関連予算の福祉・教育への転換」など7項目が並ぶ。安保関連法を「違憲」と批判する小林教授らしいチョイスだ。
この政治団体は、地方区には候補を立てない。もっぱら比例区にターゲットを絞り、小林教授を含めて10人程度の候補を擁立する。立候補に必要な供託金(候補ひとり600万円×10名分=6千万円)は、クラウドファンディングで市民から募る予定だ。
団体設立の狙いは、自民党に反感を持っているが、「民主党政権時代の失政を許せず、共産党に投票する気にもなれない多数の有権者の代弁者になる」(小林教授)ことだという。
小林教授はかねて安倍政権に対抗するため、参院選で野党が比例代表に統一候補を擁立する「統一名簿方式」の実現を呼びかけていた。
しかし、野党第一党の民進党が反対し、統一名簿方式は夢と終わった。今回の政治団体立ち上げは、野党共闘に本気で取り組まない民進党への単なる意趣返しだと見る向きもあるだろう。
ただ、それでも私は彼らに期待を寄せている。なぜなら、この政治団体は“市民による市民の政治”を志向しているからだ。
政治は政治家や政党だけが行なうのではない。ごく普通の市民も参画してこそ、オープンで透明度の高い政治が実現するのだ。
越えるべきハードルとは
小林教授は既存の政治家や政党に頼らず、純粋に市民の力だけで政治に関わろうとしている。
有権者に政党政治への失望感が広がっているだけに、こうした動きは市民が政治の主役になる可能性が開けるという一点で歓迎すべきだろう。
とはいえ、この政治団体が越えるべきハードルは多い。
まずは候補者の擁立だ。無党派層の市民が応援したいと思う清新な候補が集まるかどうか。少しでも政界の手垢(あか)がついていれば、無党派層は「市民政党の看板に偽りあり」と見破るだろう。
実務能力も問われる。候補者の多くは政治の素人になるはず。それだけに、当選したとしても国会でまともな政策論議ができないという事態が生じかねない。
最後はカネだ。有権者の期待値が高まれば政界の有象無象がすり寄ってくる。中には「表には出ないから、資金の面倒を見させてほしい。選挙後に行動を共にしよう」と、誘いをかけてくるボス政治家もいることだろう。事実“政界の壊し屋”と異名を取った野党の某豪腕政治家も、水面下でこの政治団体にラブコールを送り続けていると聞く。
「国民怒りの声」の成功は既存の政治勢力と一線を画せるかどうか、その一点にかかっている。小林教授には初志貫徹し、市民主導で参院選を戦い抜いてほしい。それが、私の心からのエールである。
●古賀茂明(こが・しげあき) 1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。近著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)
(撮影/山形健司)