『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンがアメリカ大統領選、共和党の指名獲得候補として確実となったトランプの「意外な支持者」を語る。
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ドナルド・トランプが、今年11月の米大統領選に共和党候補として臨むことがほぼ確実になりました。多くのマスコミや知識人、さらには共和党主流派からも激しくバッシングされ続けた"暴言王"は、なぜ予備選を勝ち抜けたのでしょうか?
4月下旬、トランプが大勝したニューヨーク州での予備選を現地取材した際に、あらためて確認できたことがあります。トランプを支持する人々の"属性"についてです。
彼の支持者は大きくふたつの層に分かれます。大多数(イメージでいえば8割)を占めるのは、学歴も教養もそれほどなく、グローバル化など複雑な社会の変化に対応しきれず、ただ現状に危機感を募らせる人々。高齢の白人男性が中心です。
例えば、現地でインタビューした60代の男性支持者は、長年コツコツと仕事を続けてきたという"善人"。トランプの不法移民締め出し発言に「よく言ってくれた」と熱狂しつつも、本人は決して差別主義者ではなく、合法的な移民に関しては歓迎するというスタンスでした。
ただ、悲しいかな、驚くほど"釣り"に弱い。彼は「反トランプ運動にはジョージ・ソロスの秘密資金が投入されている」といった陰謀論を疑いなく信じていました。その証拠は何かと聞くと、「みんな言ってるよ」と…。
同様に、彼は「マスメディアはウソばかり」というトランプの常套句(じょうとうく) も"丸のみ"です。獲物(大衆)が好むエサを熟知した優秀な"釣り師"にいたいけな期待を寄せる人々ーー。数でいえば、これが圧倒的なメイン支持層です。
一方、まったく違うタイプの"隠れトランプ支持者"もいます。現地で聞き取りをした感触からいうと、トランプ支持層のうち2割ほどは、高学歴で社会的地位もあるリッチな人々なのです。
トランプにしかできない期待とは…
彼らは、あくまでも純粋にトランプの経済政策に魅力を感じています。例えば、ソ連崩壊直後に若くしてアメリカへ渡ったというロシア出身のITベンチャー社長は、理路整然とした口調でこう言います。
「TPP(環太平洋連携協定)を今のまま推進すると、資本と雇用が流出して米国内の産業はダメになる。TPPをアメリカに有利な方向にチューニングしてくれるネゴシエーターは、官僚や既存の政治家ではなく、ビジネスの手腕に長(た)けたトランプしかいない」
かつて徹底的なタフ・ネゴシエートと市場原理主義で"強いアメリカ"を体現したロナルド・レーガンの再来をトランプに期待しているわけです。彼らのような共和党支持層にとっては、テッド・クルーズでは頼りなく、ジョン・ケーシックでは古典的すぎ、「消去法でトランプ」だった。もっとも、大っぴらに「トランプ支持」というと周りからバカだと思われるので、"隠れ支持"にとどまる人が多いのですが。
こうして両支持層に別々の"ウインク"を送ってきたトランプですが、最近では11月の本選を視野に、新たな票田開拓のために従来とは違った態度を見せ始めています。その中には、現在の支持層の利益に反する内容(高所得者への増税など)も含まれますが、これを「馬脚(ばきゃく)を現した」と見るべきか、それとも次なる仕掛けと見るべきかーー。やはりトランプの動向からは目が離せません。
■モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
1963年生まれ、米ニューヨーク出身。国際ジャーナリスト、ミュージシャン、ラジオDJなど多方面で活躍。レギュラーは『ユアタイム~あなたの時間~』(フジテレビ系)、『NEWSザップ!』(BSスカパー!)、『モーリー・ロバートソン チャンネル』(ニコ生)、『Morley Robertson Show』(block.fm)、『所さん! 大変ですよ』(NHK総合)など