昨年から動きのあった「酒の安売り規制」。野党も同調したのは夏の選挙対策ゆえか…

各国の首脳が集まり、27日に終了した伊勢サミット。

様々な報道がされていたが、その裏では「酒の安売り規制」がほとんど審議らしいやりとりもされないまま成立ーー。そこで、『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏が危惧するのは…。

*  *  *ディスカウント店などによる酒の安売りを規制するための法律改正が、今国会で成立。衆院の財務金融委員会で与野党が全会一致で提案し、27日、参院本会議で可決、成立した。

今後、財務大臣は酒販店に取引基準を示し、原価割れなどの格安価格で酒を売った店に対し、改善命令や罰金、さらには販売免許を取り消すこともできるようになる。年内にも実施される見込みだ。

販売免許を失えば、店側は経営上の大きなダメージを受ける。それを恐れて大規模な安売りは自粛せざるをえなくなるかもしれない。安売りで他店との差別化を図ってきた店は苦しくなるだろう。もちろん、スーパーなどのビールの安売りのお世話になっている消費者にとっても深刻な打撃だ。

だがそもそも、なぜ安売りしてはいけないのか?

価格はマーケットの状況によって決まるものだ。売れ行きが悪ければ、企業は商品の値段を下げてセールをかける。場合によっては原価以下、赤字覚悟で売ることだってありえるだろう。この法案は売る側が自由に価格を設定する権利を奪うものだ。どう考えてみても悪法だといわざるをえない。

資本力のある量販店の廉売攻勢によって、市中の小さな酒屋が圧迫されている状況を改善するため、こうした安売り規制法が必要だという声もある。

しかし、不当な廉売は独占禁止法に基づいて公正取引委員会が摘発する仕組みがある。なぜ、酒の小売りだけ安売りを禁じて保護するのか? 国会は消費者に対し、きちんと説明する義務があるはずだ。

野党も同調し全会一致の狙いは参院選?

今国会は法案提出が少なく、成立率も史上ワースト3位の低さとなっている(5月19日現在)。原因のひとつが、夏の参議院選挙を前にして、国民に受けの悪い法案の審議を避けようという与党側の意図にあることは明らかだ。

酒の安売り規制も国民受けしないように思えるが、これだけは優先的に成立させようとしている。なぜなら、この法案提出は7月の参院選対策だからだ。

酒販組合は全国にある。しかも酒屋は地域の商店街の顔役を務めることが多く、商工票を取りまとめる力を持っている。政党からすれば、酒販組合や商店街は大きな票田なのだ。

もともと、自民党は昨年、中小の酒販店でつくる政治団体の陳情を受け、酒の安売り規制法案を成立させる腹積もりだった。しかし、消費者の評判が悪い上に、安保法制審議が予想以上に難航してしまった。そのため、国民受けの悪い法律の審議を極力回避するため、酒安売り規制法案を引っ込めたという経緯がある。

ただ、安保法制はすでに施行となり、参院選も目前。世間の注目も伊勢志摩サミットに集まっている。この隙に安売り規制法を生き返らせ、酒販業界に目配せしておこうーーこれが自民党の計算だったのだろう。

驚いたのは野党の対応である。消費者の利益保護を掲げ、安売り規制のような古めかしい法案には断固反対を叫ぶべきなのに、選挙前に酒販組合を敵に回すのはまずいと恐れたのか、あっさりと自民に同調してしまった。

与野党談合による利権政治。主権者である私たちは本気で怒りの声を上げるべきなのではないか。

古賀茂明(こが・しげあき)1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。近著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)

(撮影/山形健司)