オバマ大統領が平和記念公園を訪問した日、広島に注がれたまなざしは決してひとつではなかったはず…

先月27日、バラク・オバマ大統領が現職のアメリカ大統領として初めて広島市の平和記念公園を訪問し、約17分にわたってスピーチを行なった。

スピーチ後には被爆者である森重昭(しげあき)さんと抱擁を交わす、ひと幕もーー。

タレントでエッセイストの小島慶子が、世間の気になる話題に独自の視点で斬り込む!

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広島を訪れたオバマ大統領の演説は胸を打つものでした。とはいえ、彼が語った「核なき世界」の実現への道のりは遠く険しく、原爆投下に対する日米の認識は大きく隔たったままです。

謝罪もないのに水に流してはいけないとする意見もある一方、まずは大統領が来たことを評価しようという意見もあります。あの日、広島に注がれたまなざしは決してひとつではなかったのです。

それでも大統領と言葉を交わした被爆者の方々は、会えてよかったと言いました。森重昭さんと大統領との抱擁の写真は新聞の1面トップになり、TVでも繰り返し放送されましたよね。森さんはただ抱き締められたのではなく、オバマ大統領の背中に手を回し、トントンと叩きました。あの時、ふたりにしかわからない、言葉にならないものが交わされたのでしょう。

あの抱擁をなんの象徴と見るかには幾通りもの筋書きがあるでしょう。でも、そこに写っているのは互いの思いを想像しようとする人の姿です。それが失われた時に戦争は起きるのですね。

あの写真に気持ちを揺さぶられたあなたも、確かに、何かに抱き締められたのです。

小島慶子Kojima Keikoタレント、エッセイスト。広島に初めて行ったのは中3の修学旅行。原爆資料館で大きな衝撃を受けた。大人になってから、リニューアルした資料館を見学。鎮魂の思いは尽きない