新車登録から13年が経過したクルマの税金が4月1日からさらにアップ。この新ルールの真相にモータージャーナリスト・小沢コージが迫った。
■13年超のクルマが課税対象になる理由
オイオイ、なんだよコレ、聞いてないぞ! 今春、納税書を見るなり怒りが沸点まで急上昇した人は少なくないはずだ。
そう、去年、「自動車税のグリーン化」の美辞麗句の下、いきなり始まった旧車に対する懲罰的増税だ。新車登録から13年超の古いガソリン車とLPG液化石油ガス車、そして10年超の古いディーゼル車に対し、2015年、自動車税は重課の割合が10%から15%に引き上げられた。とんでもないぜ、オイ!
02年式レガシィを持つ小沢は完璧対象内の5万1750円。標準税率4万5千円だから実に6750円アップ。その上、2年に一度の自動車重量税もガツンと上がるから、今、1.5t以下のクルマで車検受けたら、本来2万4600円のはずが3万4200円となり9600円増に!
これはまさしくエコカー減税、つまり燃費がいいハイブリッドカーやグリーンディーゼル車に対する優遇減税の反動だ。ヤツら、環境にイイ子ちゃんは燃費の良さ度に従い、自動車税なら初年度50%、75%、重量税なら25%、50%、75%、免税と一部継続的に減税される。取得税だって一部全額免除もあるのだ。
ただし、減税すると税金が足りなくなるから、取りやすいところから取る。そこで官僚さまが考えた仕組みが「古いクルマは燃費が悪い→環境に悪い→ワルは重税化OK♪」という「悪い子に罰を!」の法則だ。一見、正しく見えなくもない。が、よくよく見ると根拠が実に薄い! 気になるのは、なぜ13年超のクルマからワルになるか?
国交省に問いただすと、たらい回しにされた挙句、「税金は管轄外」とアッサリ却下。そこで総務省自治税務局都道府県税課自動車税制企画室に直電したら「今年2月の衆議院総務委員会での高市大臣の答弁がすべて」。
で、答弁内容を調べると、「重課については、乗用車の平均使用年数が約13年であることと、13年前の窒素酸化物の規制値が現在の規制値を約1.6倍上回っている」。要は「クルマの寿命は一般的に13年。排ガスも約1.6倍と汚いから十分ワルでしょ?」っつう理屈だが、走行距離が入ってない。
例えば、13年たって走行13万km突破なら結構くたびれるからわかる。が、例えば小沢の14年落ちレガシィは距離5万km台でまだピンピンだ!
新車買い替え促進…所詮は自動車業界へのサービス?
何よりお役人さまに問いたいのは、「古い物を長く使うとエコ」って聞いたことないですか?と。根拠もある。それは昔のクルマだろうが今のエコカーだろうが、クルマを造る瞬間には大量のエネルギーが使われる。鉄板のプレス成型に始まり、溶接、塗装、組み立てはもちろん、何より鉄鉱石を溶鉱炉で溶かし鉄板を造るのに大量の熱がいるからクルマ1台に約5千Lの原油を使う。
特にハイブリッドカーはモーターやバッテリーが使われるから余計エネルギーが必要だ。いくら燃費がいい新車でも、5千Lの元を取るにはものすごい距離を走らせる必要がある。だったら「古いクルマで走り続けたほうがエコでしょ?」って理屈も成り立つ。
だが、そう質問した時の総務省のひと言知ってます? 「それは専門外、総務省の管轄ではない(笑)」。ウチの管轄でエコなら他の管轄でゲスな存在でも許すってわけ。
総務省さまのグリーン化税制は「古いクルマを駆逐(くちく)するほうがエコ!」というのが建前だけど本音は違う。小沢は知ってます、古いクルマを葬り、基幹産業を支援する新車買い替え促進策ってことを。
そもそもエコカー税制が脚光を浴びたのは09年。リーマン・ショックの時だ。当時は北米GM、クライスラーがチャプター11適用で倒産し、前年度2兆円超の史上最高益を出したトヨタも翌年59年ぶりの赤字転落! そこで急遽(きゅうきょ)登場したのが“エコカー補助金”だ。
コイツはスゴかった。13年超のクルマを増税でも抹消登録でもなく、完全スクラップの永久抹消し、白ナンバーのエコ新車に替えれば25万円! 軽自動車に買い替えれば12万5千円の現金が出ちゃう超インセンティブだった。
結果、1年半でツブされた台数はなんと350万台! ボロボロの中古車はもちろん、程度のいい80年代の名車ソアラやプレリュードもガシガシツブされて、日本中のクルマ好きが嘆いたものだ。
ただ、経済効果は絶大で、同年登場の3代目プリウスはハイブリッドカーとして初めて年間30万台を突破。カローラをしのぐ国民車となり、トヨタはV字回復を果たした。
その一方で、09年は補正予算含めてトータル6300億円もの血税が補助金としてぶっ込まれているのだ。エコカー減税&補助金の本質は経済促進のための麻薬であり、本来は経済不調時にやむをえず打つもの。現在、なんだかんだで4年連続新車販売台数500万台を記録している自動車業界がズルズル手を染めるシロモノではないのだ。
何より今後、特大資本とハイテクをバックにグーグルやアップルがトヨタやホンダに挑む。そう、自動運転やAI技術だ。資源のない国の基幹産業が、それらに対抗するには補助金漬けでラクする体質に慣れたらダメなのだ。いつまでも旧車をイジメてる場合じゃない!
(取材・文/小沢コージ 協力/永田明輝 イラスト/ぷちめい)