過ちを認めず、問題の先送りする体質に問題があると危惧する古賀氏 過ちを認めず、問題の先送りする体質に問題があると危惧する古賀氏

2014年に明言していた来年の消費増税の延期を発表し、賛否両論の議論を生んでいる安倍首相。

しかし、『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は「首相の『謝れない』体質は日本経済にとって致命的な弱点だ」と指摘する。

*** 安倍首相は先週の記者会見で、来年4月に予定されていた消費増税の2年半延期と、衆院の解散・総選挙を行なわないことを発表した。この会見を見て、何よりも気になったのは首相が頑(かたく)なにアベノミクスの失敗を認めようとしないことだ。

日本経済が上向かない最大の理由は、アベノミクス「第3の矢」である成長戦略の中身がほとんどないことにある。「第1の矢」の金融緩和は確かに株高、円安などの効果をもたらした。「第2の矢」の財政出動も多少の効果はあっただろう。

だが、いずれもカンフル剤的役割しか果たせない。日本経済を底上げし、稼ぐ力をつけるには規制緩和、構造改革を伴う成長戦略の存在が欠かせないということは海外からも指摘され続けている。

安倍首相は「アベノミクスでは日本経済は好転しなかった」と素直に謝るべきだった。ところが、先月行なわれた伊勢志摩サミットで「世界経済はリーマン・ショック級の危機に直面している」と言い出したことからもわかるように、日本経済停滞の理由を世界経済の悪化に求めようとしている。

首相の「謝れない」体質は、日本経済にとって致命的な弱点だ。なぜなら、誤りを認められないために同じ過ちを繰り返すことになるからだ。

本来は成長戦略を真ん中に据えた新たな経済政策を示すべきなのに、増税の先送りどころか、野党と競うように財源の裏づけのないバラマキ政策まで約束しようとしている。

安倍首相は本気の改革をする気がない?

首相は2012年末の就任当時、2年後には日本経済はデフレから脱却し、国民の生活も必ずよくなると豪語した。しかし、2年経って、それは嘘だということがわかった。14年末の消費増税延期の際には「二度と増税の延期はしないと断言する。必ず2年後には増税できるくらい日本経済を良くしてみせる」と約束した。

しかし、国民の期待は再び完全に裏切られた。そして今また、「増税を延期し、アベノミクスのエンジンをもう一度吹かせば、必ず景気は良くなる」と叫んでいるが、そんな言葉を誰が信じるというのか。

むしろ、近い将来に国家財政が悪化し、大幅な年金カットや10%を超えるさらなる消費税アップなどに不安を強め、消費者は財布のヒモを締める行動に出るはずだ。

それでなくてもこの4年間、労働者の実質所得は下がり続けている。増税を先送りしたからといって、にわかに消費が上向くはずがない。

そもそも、人口減少の続く日本の潜在成長率は日銀推計で年率0.2%、内閣府推計でも0.4%程度だ。この現実に目を向けず、バラマキばかりの甘い公約を持ち出す政党、政治家は本気の改革をやるとは思えない。嘘のない、まじめな政治をやろうと思えば、今の日本の状況では有権者に厳しいことも口にしないといけない。新たな負担や痛みを求めることも当然、必要になる。

自らの失政を認めず、選挙に勝つため改革を先送りする。こんな政治が続けば、日本経済はさらなる泥沼にはまってしまう。

古賀茂明(こが・しげあき) 1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。近著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)

(撮影/山形健司)