東京の“トップリーダー”の醜聞を外国人ジャーナリストたちはどう見ているのか?

「弁護士による調査報告書」が公表されたものの、全く納得のいかない舛添要一東京都知事の「公私混同」疑惑。首都の“トップリーダー”によるこの醜聞を、日本で活動する海外のジャーナリストたちはどう見ているのか?

米『フォーブス』誌などに寄稿するジェームズ・シムズ氏は、呆れ顔でこう語る。

「舛添知事の弁明には無理があり過ぎるし、率直に言って見苦しいですよね。また、英語に“Thrown under the bus”という表現があります。直訳すれば『バスの下に投げられた』となりますが、そんな印象です。自民党は都知事選の時に彼を推薦しましたが、今回の疑惑では誰も擁護せず、見捨てました」

現在、都議会で与野党は疑惑を厳しく追及しているが、シムズ氏も指摘するように自民党には2014年の都知事選で舛添氏を推薦した責任もある。この選挙での自民党による推薦は「有権者無視の妥協の産物だった」と言っていい。簡単に経緯を振り返っておこう。

舛添氏は01年の参院選に自民党公認候補として立候補し、当選。07年には再選を果たしているが、09年の総選挙で民主党が勝利すると、あっさり自民党を見捨てた。2010年、新党改革の代表に就任した際には『自民党の歴史的役割は終わった、二度と戻ってこない』と言い放ち、自民党も彼を除名処分にしている。

しかし14年の都知事選挙では、新党改革で目立った活動を行なえず、国政の場で存在感を失った舛添氏と、有力な都知事候補を擁立できずにいた自民党の利害が再び一致。選挙で勝利した舛添氏は都知事に就任したが、都政などそっちのけの“ご都合主義”は今に始まったことではないのである。

今回の疑惑をすでに何度か中国に向けて報道している香港・フェニックステレビ東京支局長の李ミャオ氏は、自身のブログに寄せられた中国人たちの反応を紹介してくれた。

「ブログで取り上げた当初に浮上していた疑惑は、2013年から2年連続で千葉県木更津市のホテルを正月の家族旅行で利用し、その費用計37万円を政治資金から会議費名目で支出していたというもの。ブログを読んだ中国の人たちの反応は、皮肉そのものでした」

《約2万元なんていう金額でよくニュースになるね》、《我が国では2億元(約33億円)でもたいしたことない》、《我が国の村長のほうがお金持ちだ》

確かに、中国の汚職事件はケタが違う。12年に摘発され日本でも大々的に報道された中国共産党の幹部・薄熙来の事件では、職権乱用を除いた横領と収賄だけで2500万元もの金額が起訴の対象とされた(13年、無期懲役が確定)。さらに、15年には5万5101人もの官僚・党幹部が摘発され、不正蓄財の合計は数百億元といわれている。我が国の首都を預かる知事が、なんともイジマシく思えてくる…。

中国人記者が怒りを覚えた元都知事の暴言

しかし、舛添疑惑の額は小さくとも、問題は小さくない。李氏のブログにはこんな書き込みも…。

《東京オリンピックも賄賂疑惑、やっぱり東京都知事もだ》、《日本は民主主義の国なのだから、辞任は避けられないでしょう》

日本の民主主義が問われ、舛添都知事の元でオリンピックを開催することも疑問視されているのだ。

東京都の地域総生産は約95兆円。世界の都市別ランキングでは1位、さらに国単位のGDPランキングに当てはめても16位になる。これほどの巨大都市のトップには、本来どのような資質が求められるのだろうか? 韓国・ソウル出身の国際法学者・金恵京(キム・ヘギョン)氏(日本大学准教授)はこう語る。

「決断力と公正性が規模の大きい自治体首長に求められる主なものでしょう。しかし、都知事以上に高い資質を求められる首相経験者への日本国内の評価を概観すると、政治家全体でそうした資質を持っている人が少ないのではないかと思います」

14年の都知事選も、結局のところ“消去法”で舛添都知事を生む結果となったわけだし、金氏の指摘は都政に限らず、日本の政治全体に向けられたものと言えるだろう。

前出の李氏は「今までの舛添都知事の釈明を見ていると、とても資質を持っているとは思えない」とした上で、あの石原慎太郎元都知事の資質にも言及する。

「5月19日に外国特派員協会で石原慎太郎元都知事が会見を開きました。その席上で、彼が『中国を崩壊させるにはどうしたらいいか』というニュアンスでスピーチを展開したので、私は手を挙げて質問しました。『東京都の知事をされていた方が、なぜそこまで隣国である中国を敵視するのですか? どうして中国を崩壊させなければいけないのですか?』。

それに対する石原元都知事の回答は『嫌いだから、あの国は!』というものでした。

東京都と北京市は友好姉妹都市の関係にあります。公の場で東京都の元知事という立場の人が、こんな暴言を言うことが許されていいのかと怒りを覚えました。私は東京都民ですが、外国人なので投票権がありません。都知事選に投票する有権者には『常識ある人物を選んでほしい』と望みます」

資質という点で、現知事だけでなく元知事にも問題があったとなれば、有権者の見識も問われるのでは…。李氏の指摘は続く。

「私はこれまで9年間ほど日本の選挙を取材してきました。中国には公選制度がないので比較はできませんが、日本の有権者はその時・その場の“流れ”のようなものに乗っかって投票してしまう傾向があるように思います。政策の中味よりも知名度が当落を決めるカギになり、例えば有名なスポーツ選手やタレントの候補が当選するケースが多く見られます。都知事選に関しても、果たしてどれだけの都民が候補者の政策を吟味した上で大事な一票を投じているのか…そこは都民も反省すべきだと思います」

舛添都知事は『鉄公鶏』

一方、前出の韓国・金氏は監査機関とマスコミの責任が大きいと言う。

「一般の有権者は、投票する時点では舛添氏の公私混同的な金銭感覚までは認識できませんでした。もし、マスコミが現在のような報道をいち早く都知事選の時点で行なっていれば舛添氏に投票する有権者はいなかったでしょう。その意味で、反省すべきは有権者ではなくマスコミや監査機関だと思います」

そして、今回のような疑惑を未然に防止する具体的な施策として、韓国の例を紹介してくれた。

「韓国には『人事聴聞会法』という法律があり、高位の公職候補者に対して国会議員で組織される人事聴聞特別委員会の調査が行なわれます。本人や家族の学歴・兵役・資産・納税・犯罪歴などが調査され、この聴聞の模様はTVでも放送されるため、ここで立候補を断念する候補者も少なくありません」

ちなみに韓国では、日本の政治家が自身の金銭疑惑に対して多用する「秘書がやったこと」という言い訳も通用しない。秘書がやったことだとしても、秘書が有罪になれば政治家本人も議席を失うことになる。

『フォーブス』のシムズ氏(前出)は、次のような具体策を提案する。

「舛添都知事の政治資金収支報告書もインターネットで閲覧することができます。しかし、これは紙に手書きされた書面をスキャンしたPDFファイルで、数字をそのままコピーすることはできません。しかし、例えばエクセルのファイルで公開することを義務づければ、閲覧者が自分で集計することもできて、不正の抑止力になるでしょう」

さて、前述のように中国では“スケールの大きな汚職”が次々と摘発され、死刑を宣告されたケースもあるのだが、渦中の人・舛添都知事には、こんな中国語が当てはまるかもしれない。

「中国ではケチのことを『鉄公鶏』といいます。鉄でできた鶏は毛が抜けることがない。毛は1千分の1を示す単位ですが、ケチは1毛も出さないという意味です」(前出・李氏)

文芸評論家の故・谷沢永一氏は、著書『人間通』(新潮社)の中で次のように述べている。

《男女を通じて絶対に矯正できない悪徳がある。それは吝嗇(ケチ)と臆病である。》

人間は誰でも欠点を持っている。しかし、ほとんどの欠点は本人の自覚と努力によって矯正することができる。ただ、ケチ(と臆病)だけは本人の自覚がないから、努力が発動しないというのである。舛添都知事も自覚がないから「第三者の弁護士に精査してもらう」などと言えるのだろう。

さらに谷沢氏は、ケチは人間社会が助け合いで成り立っていることを理解しない、人のために何かをしようとはしないから他人の親切が感知できない、と指摘している。

《故に彼らは例外なく忘恩の徒である。自分のことだけしか念頭にない勝手者(エゴイスト)である。》

日本の首都・東京では、トンデモナイ人物が知事を務めているようだ。そして、2014年の都知事選挙で彼を推薦した自民党の責任も、決して小さいものではない。

(取材・文/田中茂朗)