鈴木宗男・新党大地代表と、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏による対談講演会「東京大地塾」。
今回は、5月31日早朝にもミサイルを発射するなど、ここ最近、危険な動きを強める北朝鮮の真意と、その北朝鮮が「イスラム国」と手を組んだという情報について鋭い分析が展開された。
■北朝鮮が「イスラム国」と組んで日韓でテロを起こす
鈴木 今日は佐藤さんに、5月6日に36年ぶりに開催された北朝鮮労働党第7回大会についての分析をしていただきたいと思います。
佐藤 今回の党大会で一番注目すべきは、北朝鮮が「金日成(キムイルソン)主義」から「金日成・金正日(キムジョンイル)主義」に変わったことです。どういうことか? 北朝鮮という国は今まで、建国の祖・金日成が決めたことを絶対に変えてはいけないという「遺訓政治」で動いていたんです。だから2代目・金正日も、この範囲の中でしか政策を作ってこなかった。
しかし、実際問題、世の中は日々変わります。いくら金日成の遺訓でも、時代の変化は見通せない。そこで何が起こったか? 金日成の言葉がどんどんと発見されたんです。
『金日成著作選』は最初8巻だった。その後、新しい文書が発見され、『金日成著作集』44巻になり、さらに『金日成全集』が出た時には100巻になっていた(笑)。要は新しい遺訓が発見されたという形でしか、時代に合わせた政治ができなかったわけです。もちろん、文書は捏造(ねつぞう)しているんですよ。
ところが、3代目の金正恩(キムジョンウン)は『金日成全集』は100巻で完結とした。つまり、「今後は金正恩が自分の頭で考えたことをどんどん実行する体制になりますよ」と宣言したんです。これはかなり怖い。
遺訓だと、アメリカと戦争してはいけない。平和条約を結ばないといけない。だから、核開発はするけど、アメリカに届くミサイルは造らない。ところが、この遺訓の縛りが外れちゃったから、金正恩は宇宙空間まで到達するミサイルを撃った。これに再突入カプセルを造り、核弾頭を搭載すれば、アメリカに届く核ミサイルが完成する。
こうなるとアメリカは、2通りの対応をすることになる。ひとつは、アメリカのインテリジェンスがしっかりとしていて、北の地下ミサイル基地の位置が正確にわかっているならば、そこをバンカーバスターで吹き飛ばす。もしその位置がわからなければ、2番目の手段、金正恩を米韓の合同特殊部隊で殺しに行くでしょう。
「イスラム国」の首都に北朝鮮の工作員が
バンカーバスターでも暗殺でも、米軍はその攻撃をどこからやると思う? ほぼ青森県の三沢基地ですね。これは北朝鮮もわかっている。となると、金正恩はどうするか? 座して死を待つわけがない。三沢の米軍基地を先制攻撃するでしょう。
今、それに関してすごく怖い情報が、いくつかの情報機関筋から流れてきているんです。それは、「イスラム国」の首都ラッカに北朝鮮の工作員が現れたというもの。
何をしに行っているのか? 皆さんは、北は核技術やミサイルの輸出で金儲けしていると思っているでしょう。でも実際、一番儲けているのは土木技術なんです。どんな土木かというと、地下を掘って、トンネル張り巡らして地下都市を造る技術です。
今までの実績でいうと、リビアでカダフィ大佐のために地下都市を造っているし、イスラエルが空爆したシリアの核基地も地下に造っていた。地下に都市や基地を造れば、人工衛星に映らない。アメリカがドローン攻撃しても、地下に標的がいれば狙えない。地下なら、バンカーバスターでピンポイントでここにいるとわからない限り、やっつけられない。
だから、「イスラム国」のラッカに北朝鮮が地下都市を造ったら、空爆だけでは落とせない。地上戦に入らないと。おそらく、北朝鮮は「イスラム国」と、その協力をするんじゃないかと、私は推定しています。
では、「イスラム国」は北朝鮮に対して何を提供するか? 北のテロ工作員が、「イスラム国」に偽装したテロを韓国と日本でやるんじゃないか。北朝鮮の工作員がテロを起こしたって、みんなそんなに怖がらない。しかし、もしこれが「イスラム国」のテロだという形で起きたら、世界的なパニックになるし、日本政府も大変なことになる。
北朝鮮にとっては、アメリカとその同盟国をやっつけることは利益になるし、「イスラム国」にとっても利益になる。遺訓政治ならば、テロ国家とテロリストが提携するなんてなかったけど、今は金正恩が自分で考えて動かせるから可能になったわけです。
鈴木 これは大変ですね。
金正恩の痛風と痔が判断を誤らせる?
■金正恩の太りすぎが「暴発」を引き起こす?
佐藤 先生、もうひとつ心配なことがあります。
鈴木 なんでしょう?
佐藤 3代目のお兄さん、ちょっと急速に太りましたよね(笑)。就任した時は、韓国情報機関の推定だと80kgだったんですが、今は130kgくらいありそうです。そうすると何が心配か? 痛風です。
実は歴史において、独裁者で心配なのは病気なんです。特に痛風と痔(じ)。このふたつは忍耐力に影響を与えるから、判断を間違える。痔は座っていられないから長い会議に耐えられない。だから、「もういい!」となっていい加減な決定をする。
西南戦争だって、西郷隆盛はなぜ馬に乗ってないのか? フィラリアにかかって、虫が睾丸(こうがん)に入って、膝あたりまでキンタマが腫(は)れちゃった。痛いしイライラするしで、普通なら西南戦争なんて勝ち目のない戦いはしないのに判断を間違えた。
独裁者が病気、例えばがんとかになると、「オレが死んだらこの世なんて全部なくなっても構わない」とか言いだして、何をしでかすかわからない。今までは『金日成著作集』読んで、その遺訓の中で動いてくれたから大丈夫だったけれども、金正恩はフリーハンドになったから、何をやるかわからない。
北朝鮮には偉大なる風格という概念があり、人間の思想性は風格に表れるとされている。つまり、金正恩は金日成そっくりになるため太らないといけないんです。でも、あれくらい太るって、結構大変なんですよね。
鈴木 以前、足を引きずっていた時期がありますが、あれは痛風だったんですかね?
佐藤 その説が一番有力です。
鈴木 痛風は一回出るとクセになりますからね。私も一度ありますが本当に風が吹いてもトンデモナイ痛さです。
佐藤 だから、その痛風の発作の時に側近の粛清をやったのかもしれません。
●鈴木宗男(すずき・むねお) 1948年生まれ、北海道出身。新党大地代表。2002年に国策捜査で逮捕・起訴、2010年に収監される。現在は2017年4月公民権停止満了後の立候補、議員復活に向け、全国行脚中!
●佐藤優(さとう・まさる) 1960年生まれ、東京都出身。外務省時代に鈴木宗男氏と知り合い、鈴木氏同様、国策捜査で逮捕・起訴される。外務省退職後は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、作家・評論家として活躍
■「東京大地塾」とは? 毎月1回、衆議院第二議員会館の会議室を使って行なわれる新党大地主催の国政・国際情勢などの分析・講演会。鈴木・佐藤両氏の鋭い解説が無料で聞けるとあって、毎回100人ほどの人が集まる大盛況ぶりを見せる。次回の開催は6月23日(木)。詳しくは新党大地のホームページへ
(取材・文/小峯隆生 撮影/五十嵐和博)