スイスでは毎月2500スイスフラン(約28万円)を給付する国民投票が否決されたが…

誰でも毎月一定額のお金が給付される社会保障制度「ベーシックインカム」が世界で注目を集めている。

この制度のメリットは? 生活はどう変わる? 日本で実現する道のりは? 経済評論家の山崎元(はじめ)氏が“そもそも”から解説!

■ベーシックインカムは究極の構造改革

全国民に毎月一定額の現金を給付する、「ベーシックインカム」(以下、BI)制度に世界の関心が高まっている。

スイスでは6月5日に、毎月2500スイスフラン(約28万円)を給付するBIの導入賛否を問う国民投票があったばかり。しかし、賛成23・1%、反対76・9%の大差で否決された。

フィンランドではBIの効果を測る「実証実験」を検討中だ。約1万人の国民に月額800ユーロ(約10万円)のBI給付を2017年から2年間にわたって行なうという。他にもオランダ、ドイツ、カナダといった国々でも自治体レベルで試験導入がスタートしている。

そして、日本でもBIへの関心は高い。すでに旧民主党、おおさか維新の会、生活の党、新党日本、緑の党など多くの政党がマニフェスト化を検討しており、BIの実現を目指す新しい市民グループも登場している。

いずれ日本でもBIが導入されるかもしれない…というわけで、経済評論家の山崎元氏にBIの基礎のキを聞いてみた。まずはこの制度の基本的な仕組みについて。

「BIは、全国民にひとりずつ“一律”に“無条件”で現金を給付するセーフティネットです。年金や生活保護、雇用保険といった健康保険を除く旧来の社会保障はすべて撤廃され、BIに一元化されます」

究極の行政改革でいいことだらけ?

山崎氏はBI導入の長所をこう列挙する。

「毎月一定額の現金が確実に手に入る極めてシンプルな制度なので、利用者は先の見通しが立ちやすい。例えば、突然リストラされても、BI+短時間のアルバイトで食いつなぎながら、次の仕事を探すための準備ができます。

他にも給付金の使い道を役人(国)に指図されない、手続き不要の一律給付だから受給漏れが起こりにくい、生活保護のような不公平感も一切ないなど、魅力を挙げればキリがありません。

『金持ちにも同じ額を給付するのは不公平だ』という批判がありますが、その分、税負担を重くすれば、公平性は担保できます」

BIは利用者だけでなく、行政面においても特大のメリットがある。

「BIが導入されれば、年金を扱う日本年金機構や政府の失業対策、生活保護に関するセクションなどが不要になり、行政コストの大幅な節約が期待できます。

また、役人の裁量権の縮小にもつながり、官僚機構の肥大化を防げる。すなわちBIは、小さな政府を実現するシステムであると同時に究極の行政改革でもあるのです。この点がBIの最大の長所といえるでしょう」

これほどいいことだらけのように思える「ベーシックインカム」だが、その実現を阻む最大の抵抗勢力とは? 『週刊プレイボーイ』26号ではその問題点について詳説しているので、そちらもお読みいただきたい。   

●山崎元(やまざき・はじめ)北海道出身。経済評論家。コンサルタントとして資産運用分野を専門に手がけるほか各メディアで経済解説を行なう。近著は『信じていいのか銀行員 マネー運用本当の常識』(講談社現代新書)

(写真提供/平川真梨子)