夏の参院選で与党が圧勝し、世間は安倍政権によるアベノミクス継続を歓迎しているように見える。しかし、その一方で気になるのが、7月29日にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が発表する年金の運用実績だ。先のイギリスのEU離脱ショックを受け、「年金が12兆円も消えた」とする試算が出ているのだ。
すでに「2015年度の損失額は5兆数千億円に上る」ともいわれているが、損失はまだまだ膨らんでいる可能性が高い。
その原因が、アベノミクスの成長戦略の一環「GPIF改革」だ。2014年10月、国民年金、厚生年金を運用するGPIFが、資産の構成比率を定めた「基本ポートフォリオ」を見直したのだ。
それまで、比較的リスクの少ない国債が全体の約6割を占める「安全重視型」の資産構成を取っていたGPIFが、安倍政権の意向を受けて、国内株、外国株の比率をそれぞれ2倍近く増やし、「積極的な運用」へと方向転換。
それによって巨額の年金マネーが株式市場に流入、アベノミクスの目指す株高が一気に加速。それはさらにGPIFの運用益も生み出し、理想的な「好循環」を引き起こしている、かに見えた……。
ところが、昨年8月には一時、2万1000円を超える勢いを見せていた株価がその後、中国など新興国経済の先行き不安やアメリカの利上げなどの影響で下落へと転じる。当然、「株式」への投資比率を増やしたGPIFの「運用損」は拡大する。
1年3ヵ月で約12兆円もふっ飛んだ計算になる
そうした状況に追い打ちをかけたのが先日の「イギリスEU離脱ショック」の影響などによる今年度に入ってからのさらなる株安だ。4月以降、株価は10%近くも下落し、特にEUショック後は円高も進んでいることを考えれば、その傷は一段と深まっているとみて間違いないだろう。
金融・経済評論家の近藤駿介氏は次のように話す。
「これはGPIFの2015年末時点の資産配分をベースにした個人的な推計ですが、例えば今年の4月からEUショックの翌日、6月24日時点までの運用損は7兆円前後になると思われます」
この近藤氏の推計と、2015年度の損失分およそ5兆円を合わせると、年金が直近の1年3ヵ月で約12兆円もふっ飛んだ計算になるのだ。
これだけの危機にある年金だが、ここに「年金の切り崩し」という問題が追い打ちをかける。発売中の『週刊プレイボーイ』31号では、運用損だけでは語れない、年金問題の本質を追求。政府が盛んに訴える「年金100年安心プラン」の崩壊と原因について分析しているので、ぜひご覧いただきたい。
(取材・文/川喜田 研)
■週刊プレイボーイ31号(7月16日発売)「俺たちの年金12兆円が消えた!?」より