抵抗勢力との戦いを演出した劇場型選挙で見事勝利を収めた小池百合子新東京都知事。
だが、都議会とのバトル、東京五輪の不透明な予算、自民党との軋轢(あつれき)など、問題は山積みだ。“小池劇場第2ラウンド”ではどんな一手を講じてくるのか。百合子ウオッチャーと占った。
■“都議会のドン”との対立はさらに激化!
小池百合子新都知事の次の一手が注目されている。都政担当記者が言う。
「自民の推薦のないまま出馬し、保守分裂選挙を招いてしまっただけに、小池さんへの風当たりは強い。特に冒頭の議会解散を宣言され、改革の敵呼ばわりされた自民都議連は不満タラタラです。知事当選後に自民都議連とのバトルが避けられない状況だけに、小池新知事の次の一手が耳目を集めているのです」
知事と自民都議連のバトルはすでに始まっている。例えば8月2日の小池知事の初登庁シーン。議会各派に挨拶(あいさつ)回りに訪れた知事に、自民都議連はいきなり冷水を浴びせた。
「知事が来室するのを知っていながら、都連トップの内田茂幹事長は不在。ナンバー3の高橋信博総務会長が『たまたまここにいたから』と30秒ほど対応しただけでした。内田幹事長の側近とされる川井重勇(しげお)都議会議長に至っては、恒例の新知事との写真撮影も拒否したほど。この冷たい対応は、“都議会のドン”と呼ばれる内田幹事長の指示があったとされています」
果たして、小池知事はどう反撃するのか? 政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏は新党結成の可能性もまだあるという。
「自民党本部は小池知事の除名を見送る方針のようですが、そうなると選挙戦で『自民党と戦う』と公言した手前、離党届を出してポーンと出ていかないと『小池は嘘つき』『除名されなければ自民党と手を組むのか』と、都民の怒りを買う羽目になる。
今回の都知事選で、自民から除名の対象になったのは小池知事本人、応援に回った若狭勝(わかさ・まさる)衆院議員、豊島区、練馬区選出の7区議の計9人です。あくまでも世論を見ながら、これらのメンバーで地域政党としての小池新党をつくる可能性はあります」
前出の都政担当記者が言う。
「内田幹事長は強気です。小池さんの風下につく気はない。というのも、都知事選と同時に行なわれた4つの都議補欠選で自民都議連が全勝したんです。これで会派の勢力は127議席中、56議席から60議席に拡大した。そのため、ドンの座は揺るがないと考えている。
その内田幹事長に対抗するには新党をつくって来年夏の都議選に候補を擁立し、小池派の都議を増やすしかない。知事と自民都議連の関係が修復しない場合、都議選は自民対小池新党の激しい競り合いになる可能性が大です」
河村たかし名古屋市長の動向も注目
■“小池新党”に勝算はあるか!?
ただ、小池新党がスタートしても、しょせんは小所帯。東京を地盤とした地域政党にすぎない。60議席を誇る巨大与党、自民都議連とがっぷり四つで戦えるものなのか?
「同じ地域政党の大阪維新の会の一部の幹部が、小池さんと連携する可能性を示唆しています。小池知事は『地方議員数の削減』や『政治資金の透明化』など『身を切る改革』を主張している。これは大阪維新と同じ。そこで東西の地域政党が連携することで改革の波を起こそうとしています。実際、大阪維新の会の幹部と小池さんは東京の旧維新地方議員が話をつないで接触したと聞いています」(鈴木氏)
都知事選で小池候補の応援に駆けつけた河村たかし名古屋市長の動向も要注目だという。鈴木氏が続ける。
「なぜ河村さんが小池さんを応援するのか? 河村さんは『減税日本』という愛知の地域政党の代表でもある。これは『小池新党』『大阪維新』『減税日本』の3地域政党での協力関係を狙っているからです。さらに、ここに鈴木宗男さんがつくった北海道の『新党大地』なども連携することになれば、地域政党ブームが起きてもおかしくありません」
小池知事はその地域政党ブームの中心に居座り、自民都議連と対決するつもりらしい。そのバトルの行方が見えてくるのは、10月に行なわれる東京10区の衆院補選だと、前出の都政担当記者は言う。
「小池さんは東京10区選出の自民党衆院議員でした。そこが都知事選出馬に伴って空白区になっている。その補選が10月23日に行なわれるのですが、いまだに与党系候補が決まっていません。もし自民都連が自前の候補擁立に成功すれば、内田幹事長の勢力が衰えていないという証(あかし)になる。
反対に小池知事が推す候補、あるいは官邸主導で自民都議連vs小池のバトルとは距離を置く人物が与党系候補として出馬するようなら、内田幹事長の権力が低下したとみることができるのです」
『五輪税』の導入で都民の負担は増える!?
■五輪予算の透明化と“五輪税”導入の二枚舌
小池知事は都知事選で、都の五輪予算の透明化を公約している。それを聞けば、自民都議連との争いに勝利したあかつきには知事が五輪予算のカットに乗り出し、都民の負担を減らしてくれるのではと期待する都民もいるだろう。
しかし、現実には小池知事は逆の一手を打ってくるというのだ。財務省主計局キャリアがささやく。
「都民の負担は減るどころか、逆に増えるかもしれません。というのも、小池知事は五輪予算の透明化を進めると口にしながら、『五輪税』の導入を狙っているからです。それが知事選半ばの会見で発した『国や都の予算でなく、個人の資産も協力をお願いしたい』という発言の真意です」
どういうことか?
「小池知事は自民都議連と対立しているだけで、官邸と対立するつもりはない。だから安倍首相も小池知事を除名処分にしなかったんです。五輪予算についても、東京五輪を成功させるため官邸と連携を図りたい。不足する五輪予算を『五輪税』でひねり出そうというのは、安倍首相と森喜朗元首相の話し合いで浮上したアイデアです。知事はそれを自分が実行することで、官邸とバランスを取ろうとしているのでしょう」
東京五輪の予算は当初の3千億円から1.8兆円に膨らんでいる。そのうち、都の負担分は4568億円。これに企業協賛金やチケット代金などの開催収益を加えても、まだ6千億円足りないという。財務省キャリアが続ける。
「『五輪税』はまず特別都民税として徴収され、都の負担金に充当される。早ければ2016年度末にも増税が小池知事によって提案されることになるでしょう。続いて、それでも不足する予算について、特別徴収税枠の国税として国民から徴収せよと小池知事が主張し、それを安倍政権が受け入れるというシナリオです。
つまり、東京都民は都民税、国税によって『五輪税』を二重取りされるというわけです。小池知事と自民都議連のバトルばかりに目を奪われていると、都民は痛い目に遭うことになりますよ」
政党を渡り歩き、都政トップの座に就いた小池知事を前出の鈴木氏がこう評価する。
「ここ数年、小池さんは自民党内で冷や飯を食わされてきた。そんな小池さんにとって、都知事選出馬は政治家としての集大成であり、永田町政治へのリベンジでもあったはず。それだけに知事になり、新党などで日本の政治の流れを変えてやるという意地は、小池さんの中に必ずあるでしょう」
小池劇場はまだまだ始まったばかりなのだ。
(取材・文/本誌ニュース班)