世界中のテロや紛争も「絶望」が一因になっていると語るモーリー氏

『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンがアメリカで深刻化される「人種間対立」について語る。

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アメリカで黒人と白人の「人種間対立」が深刻さを増しています。7月5日にルイジアナ州、6日にはミネソタ州で白人警官が黒人男性を射殺する事件が起き、全米で黒人差別に対する抗議活動“Black Lives Matter”が過熱。一方で、そうした集会のさなかに、現場を警備していた複数の白人警察官が黒人スナイパーに射殺される悲劇も相次ぎました。

今回の警官射殺事件と関係しているかどうかはわかりませんが、近年、米南部を中心に“黒人国家”の樹立を目指す「ニューブラックパンサーズ」などの黒人過激派グループの活動も活発化しています。そのメンバーのなかには退役軍人もおり、軍事的な力を持った“革命予備軍”が生まれ始めているわけです。

こうした潮流の背景にあるのは、分断と格差、そしてそこからくる「絶望」。これは何もアメリカの人種間対立に限った話ではなく、世界中の様々なテロや紛争も、同様に「絶望」が一因になっていることは認めざるをえない事実でしょう。

貧困がさらなる貧困を生み出す構造。それに伴い加速する暴力の連鎖。教育機会、雇用、所得、そして「暴力にさらされるリスク」の格差…。国家や資本主義という枠組みが限界に近づくにつれ、先進国、後進国を問わずあらゆる場所でハレーションが起きる。イスラム原理主義がどうの、黒人と白人の歴史がどうの、という個別の事情はもちろんあるにせよ、そこに通底しているのは「絶望」という感情なのです。

メディアも政治家も不都合な未来について語らない

多くの日本人は、そんな世界の混乱を人ごとのように眺めているでしょうが、すでにこの“平和と安心のガラパゴス”にも、「絶望」というグローバルスタンダードの波は目の前まで押し寄せています。ムリに危機感を煽(あお)ろうという気はさらさらないけれど、客観的に見て、確度の高い予言をしようと思えばこういう表現にならざるをえません。

はっきり言います。日本はいずれ移民の大規模受け入れ、大増税、大幅な社会保障のカットを絶対にやらなければいけない。しかし、メディアも政治家も不都合な未来について多くを語らない。「格差は解消しなければいけません」などと、むしろ危機感をにぶらせる麻酔のような言葉を発し続けている。よけいなパニックを起こすまい、という優しさなのかもしれませんが。

この麻酔にすっかり慣れた日本人は、心のどこかで「最終的には国が助けてくれる」と思っている気がしてなりません。どうしてそんな“検証なき安堵(あんど)感”にいつまでも浸れるのかーー。それが「絶望」にリアリズムを感じられない人々の“ゆるさ”なのでしょう。

日々、英語で配信されている世界のニュースを見聞きすれば、現状がいかにヤバいかを理解することは難しくありません。この社会の骨組みは、みんながギリギリで支えているだけ。骨粗鬆症みたいなものです何かのきっかけで一ヵ所、疲労骨折が起きたら、もう雪崩(なだれ)を止めることはできないでしょう

高名な学者が正しい理屈をいくら並べようと、きれいごとだけでは誰も救うことができません。すぐそこにある「絶望」と対峙(たいじ)する覚悟ができているかどうかーー。これからの時代、それが死活的に重要になってくると僕は感じています。

●Morley Robertson(モーリー・ロバートソン)1963年生まれ、米ニューヨーク出身。国際ジャーナリスト、ミュージシャン、ラジオDJなど多方面で活躍。フジテレビ系報道番組『ユアタイム?あなたの時間?』(月~金曜深夜)にニュースコンシェルジュとしてレギュラー出演中!! ほかにレギュラーは『NEWSザップ!』(BSスカパー!)、『モーリー・ロバートソン チャンネル』(ニコ生)、『MorleyRobertson Show』(block.fm)など