『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが「集合知」による社会改革について語る。
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7月の参院選では野党共闘もむなしく自民党が圧勝し、続く東京都知事選でも野党統一候補が惨敗。
思い返してみれば、2011年の「3.11」以降、ソーシャルメディア上ではリベラル左派の声が常に大きかったにもかかわらず、現実の選挙ではおおむね逆の結果が出続けています。
今まで声を上げられなかった「善良な市民」がツイッターやフェイスブックで意見を発信し、「みんなの知恵」で世の中を変える…。そんな“集合知”なるものへの期待は、残念ながら幻想にすぎなかったと認めざるをえない時期にきています。
僕もかつては集合知による社会の変革を夢見ていました。特に2010年末から始まった「アラブの春」の頃は、SNS革命という世界的ムーブメントがあり、中東から発信される生々しいツイートを日々、興奮しながら実況したものです。
しかし、日本では「3.11」の直後から、古くさい主張を繰り広げる左派がツイッターに跋扈(ばっこ)し、反原発派の拙(つたな)いレトリックや陰謀論が怒りの感情とともに大拡散された。そこで僕は気づきました。このツールはいいものでも悪いものでもない。ただの“拡声装置”にすぎないのだ、と。
「権力者は悪で、集合知が一番正しいんだ」というのは一種のアナーキズムといえると思いますが、考えてみれば、声を上げて集まるだけで簡単に原発をなくしたり、少子高齢化が解決したり、格差が解消するなんてことはありえません。もちろん、そこで建設的な議論が起きることもあるにせよ、多くの場合はひどいデマすら排除されず、稚拙な思い込みや願望が仲間同士で共有されるにとどまる。そして、そんなかなわぬ夢を「いつしか実現するのではないか」と人々が錯覚してしまう“偽薬(プラシーボ)効果”が蔓延するわけです。
SNSは“正義の暇人”に遊び場を与えているだけ
もっとも、これは日本固有の現象ではありません。昨年秋に始まった米大統領選の候補者争いでも、民主党のバーニー・サンダース候補はSNS上で若い世代を中心に支持を伸ばしましたが、「金持ちの資産を再分配すれば世の中はよくなる」というような“0か100か”の世界観が現実世論の主流になることはなかった。結局、アラブの春が社会を変えたのは、あくまでも“正しい問題設定”があったから。SNSはそれを加速させただけなのでしょう。
英語圏では最近、「SJW(Social Justice Warrior[ソーシャル・ジャスティス・ウォリアー])」というスラングが流行しています。自分たちが考える「社会正義」のためにSNSで他人を攻撃し続け、かえって世の中を窮屈にしている人たちを揶揄(やゆ)する呼称です。SNSという装置は今のところ、こうした“正義の暇人”に遊び場を与えているだけなのかもしれません(そう言ったら本人たちは激怒するでしょうが)。
僕には、現在のネット言論の状況がバブル崩壊前夜の日本に重なって見えます。すでに馬脚を現したネット有名人たちが、「これからはSNSだ、集合知だ」と、最後にもうひと稼ぎしようとしている―。
また、これまでと逆に、狡猾(こうかつ)な右派がこうした手法で“右バージョンのSEALDs”を登場させる可能性もあるでしょう。右か左かに関係なく、結局はひとりひとりが自分の頭で考え、模索するしかない。さもなければ、いずれ誰かの“偽薬”を飲むことになるでしょう。
●Morley Robertson(モーリー・ロバートソン) 1963年生まれ、米ニューヨーク出身。国際ジャーナリスト、ミュージシャン、ラジオDJなど多方面で活躍。フジテレビ系報道番組『ユアタイム~あなたの時間~』(月~金曜深夜)にニュースコンシェルジュとしてレギュラー出演中!! ほかにレギュラーは『NEWSザップ!』(BSスカパー!)、『モーリー・ロバートソン チャンネル』(ニコ生)、『MorleyRobertson Show』(block.fm)など