15年度の運用実績で5兆円超の損失を出したGPIF。
公的年金の将来にますます不安が募る中、『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は、GPIFおよび日銀が公的マネーを日本株につぎ込む危うさについて警鐘を鳴らす。
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異常な事態だ。8月29日付の日経新聞によると、日銀とGPIF(厚生年金と国民年金の積立金を管理・運用する機関)を合わせた公的マネーが、東証1部上場企業の約25%(1970社中474社)で実質的な筆頭株主になっていることがわかった。
日銀は金融緩和の一環として、ETF(上場投資信託)の買い入れを年6兆円のペースで続けている。GPIFも2014年に日本株の保有比率を12%から25%へと大幅に引き上げ、日銀とGPIFの株式保有額は今年3月末時点で39兆円に達した。これは日本の株価総額509兆円超の約6%弱を占めている。
そもそも、日銀の株買い入れは自国の株が下落する際に相場を下支えするために行なわれるケースがほとんどだ。しかし、この規模は“下支え役”の範疇(はんちゅう)を超えている。もはや日本の市場は公的マネーによって“株高演出”がされていると言っても過言ではない。
日銀、GPIFは今後も日本株の買いオペを続ける方針というが、今すぐに撤回すべきだ。あまりにもデメリットが多い。
まず、国民の年金資産が目減りするリスクが高くなる。GPIFは株式の運用比率を上げることで資産増を狙うが、14年10月から今年6月末までの通算結果は1兆962億円の評価損。年金資産はリスクの少ない運用に徹するべきだ。
ふたつ目は企業の経営規律が緩み、成長力強化のための構造改革が遅れてしまう点だ。日銀は、収益力のある企業の株を選んで買うのでなく、株価指数に沿って広く薄く投資する「パッシブ運用」を採用している。そのため、稼ぐ力のない企業の株も買われ、ダメ会社、ダメ経営者が改善の努力をしないまま生き残ってしまう。これでは構造改革も進まず、日本の成長にプラスにならない。
出口戦略がない株式運用は危うい
3つ目は「出口戦略」が見つからないことだ。公的マネーで買った株式はいずれ売却し、年金給付などで国民に還元する。しかし、これだけ大量の株式が売却されると、売り圧力が強まり、株価は下落せざるをえない。
そのため、ファンドなどの投資機関は損失を嫌い、公的マネーが株売りを始める前に大量に保有株を売り浴びせてくるだろう。こうなると、売りが売りを呼び、株価の大暴落につながる。しかしGPIFの場合は、年金支給のため、どうしても特定の時期に売却が必要になる。そして、その時期は自由に選べない。相場が下がったときでも売らざるをえず、大損を招く可能性があるのだ。
出口戦略がない株式運用は危うい。評価損を抱えたまま保有株を塩漬けにするか、株価が下がらないよう、さらに株を買い増すしか手立てがない。その先に待つのは巨額の欠損、赤字だ。
日銀やGPIFを無謀な投資に駆り立てたのは、アベノミクスだ。しかし、金融緩和で円安株高を演出し、デフレ脱却を目指すというシナリオは破綻している。再度言う。公的マネーを“株高演出”に使うのは今すぐやめるべきだ。
●古賀茂明(こが・しげあき) 1955 年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011 年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。近著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)