北方領土交渉のラストチャンスについて議論を交わす鈴木宗男氏(左)と佐藤優氏

鈴木宗男・新党大地代表と、元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏による対談講演会「東京大地塾」(8月24日開催)。

大統領府長官というロシアの重要ポストに、新たに日本語が堪能なアントン・ワイノ氏(44歳)が就任した。今回の人事には北方領土問題解決へのロシア側の強い意欲がうかがえる。

そうした状況において日本外務省はどのようなアクションを起こすべきなのだろうか。

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鈴木 先日、ロシアのプーチン大統領はセルゲイ・イワノフ大統領府長官を交代させて、後任にアントン・ワイノ氏を就任させました。これが今後の日露関係にどういう影響があるのか。東京のロシア大使館に勤務した経歴を持ち、佐藤さんとも旧知の仲のワイノ氏について今日はお話をいただきたいと思います。

佐藤 プーチンは非常に面白い人事をしています。イワノフ氏以外にも比較的高齢な主要ポストの人物を多く解任しているんです。これはいよいよプーチンが後継世代づくりを始めたということ。そしてプーチンは体制継承について、ブレジネフから学んでいると思います。

1964年からソ連の最高指導者を務めたブレジネフは、人間関係を大切にする人だったということもあり、彼を支えた政権の主要ポストの人間を急に代えたりしなかった。だから政権が長期化、高齢化し、政策も硬直してしまったんです。

これをKGB時代に見ていたプーチンは今、若い人を多く重用する人事刷新を行なっている。そのひとりが44歳で大統領府長官になったアントン・ワイノです。

ワイノの祖父は、エストニア共産党のトップである第一書記。父は、“赤い商社員”といわれたソ連通商代表部の日本駐在員でした。ワイノは中学生の頃、港区のソ連大使館の中にあった学校に通学して、日本語を習得しました。

その後、モスクワ国際関係大学を卒業して、1996年に外務省に入り、東京のロシア大使館に配属された。通常は1年間、東京大学か東京外国語大学で研修をするんですが、それをパスできるほどワイノは日本語が堪能でした。

そして、ワイノは2000年のプーチン来日の際にプーチンの世話係を務める。大統領の世話係はその大使館のメンツを保つ意味でも重要な仕事で、そこで彼はプーチンに非常に気に入られます。

そして、2002年に大統領府に引き抜かれてから急速に出世をし始めた。この裏にはプーチンの引きがあったのだと思います。

日露関係のキーマンとパイプのない外務省

しかも、2012年にプーチンが大統領に復帰した直後に大統領府副長官になってからは、大統領のプライベートの日程もすべて把握する日程担当に就任します。日本語能力が高く、日本情勢もずっとウオッチしているワイノに、対日関係でプーチンが相談しないはずがない。

という意味でも、ワイノが日露関係の一番のキーパーソンなんです。外務省にもそう言っていたんですが、私が言うことだから無視されてきましたけどね。

2012年の森喜朗元首相の訪露の際も、ワイノと会うべきだと話したのですが、モスクワの日本大使館は「ワイノなんて、総理がお会いするレベルの人間じゃないですよ」と言って取り合わなかった。

それで今回、ワイノが大統領府長官になって、パイプをつくれていなかった外務省は相当慌てていると思いますよ。

★後編⇒『注目のロシア新人事。外務省は北方領土解決の“最後のチャンス”を逃すな!』

●鈴木宗男(すずき・むねお)1948年生まれ、北海道出身。新党大地代表。2002年に国策捜査で逮捕・起訴、2010年に収監される。現在は2017年4月公民権停止満了後の立候補、議員復活に向け、全国行脚中!

●佐藤優(さとう・まさる)1960年生まれ、東京都出身。外務省時代に鈴木宗男氏と知り合い、鈴木氏同様、国策捜査で逮捕・起訴される。外務省退職後は大宅壮一ノンフィクション賞を受賞するなど、作家・評論家として活躍■「東京大地塾」とは?毎月1回行なわれる新党大地主催の国政・国際情勢などの分析・講演会。鈴木・佐藤両氏の鋭い解説が無料で聞けるとあって、毎回100人ほどの人が集まる大盛況ぶりを見せる。次回の開催は9月27日(火)。場所は、東京・紀尾井町のホテルニューオータニ ザ・メイン宴会場階の芙蓉の間。詳しくは新党大地のホームページへ

(取材・文/小峯隆生 撮影/五十嵐和博)