「役人の無責任体質を改めない限り、最終的に損をするのはわれわれ国民」と訴える池田和隆氏

第1次安倍政権崩壊の震源地だった男・池田和隆氏がタブー全開で権力と既得権益に斬り込む『週刊プレイボーイ』のコラム「池田和隆の政界斬鉄剣!!!」。

今回は、土壌汚染対策をめぐる問題で揺れる、築地市場の豊洲移転についてブッタ斬る!

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池田「今週は、東京・豊洲(とよす)の新市場移転問題を解説しましょう。実はこの問題、日本が抱える致命的な欠陥が浮き彫りとなった、象徴的な事例なのです」

どういうこと!?

池田「日本の地方自治体や中央官庁では、どんなに重要な政策や巨大事業でも、最終的に誰が決定したのかよくわからないんです。だから後に何か問題が起きた場合、いったい誰に責任があるのかが本当にわからない。この無責任体質こそ、日本を蝕(むしば)む最悪の病気なのです」

詳しく説明してもらおう。

池田「今、問題視されているのは、豊洲の建造物の下に、計画になかったはずの地下空間があり、それができた経緯がよくわからないことと、その安全性です。さらに、当初は990億円程度だった建設予算が、結局は3倍近い2752億円にまで膨らんでしまったことも問題でしょう。世間の関心は今後、このような事態を招いた責任者は誰なんだということに移っていく。でも、この犯人捜しにゴールはありません。本当の責任者など存在していないのですから」

当時の石原都知事や都庁の整備部長とかじゃないの?

池田「皆さんは、都庁が意図的に都合の悪い事実を隠していると思っていませんか? 実は役所に“組織的な隠蔽(いんぺい)”をする理由などなく、逆に民間企業のほうが隠蔽体質が強いのです」

そんなの信じられない!

池田「でしょうね(笑)。例えば民間企業の場合、大きな事業の失敗や不正の露呈は株価の暴落や倒産にもつながるので、組織ぐるみの隠蔽が起きやすい。最近では、三菱自動車が度重なる隠蔽工作をしていましたよね。しかし同時に、誰かがミスをして失脚すれば、代わりに誰かが出世できる側面もあるわけで、内部告発が生まれやすい土壌もあるのです。

一方の官公庁では、どんなに失敗をしても倒産しないので、採算や効率などを気にする習慣がない。だから組織的な隠蔽をする必要もない。しかも出世が年功序列なので他人を蹴落とす必要もなく、誰かの不正を内部の人間が指摘する土壌がない。公務員たちは役所全体や部署ごとに強固な仲間意識を持っていて、暗黙の了解でお互いを守り合っているだけなのです」

石原元都知事をバッシングさせて終わり?

とはいえ、管理職である局長や市場長が責任者なのでは?

池田「形式上はそうですが、実態は違う。具体的にさまざまな作業や調査、調整を行なうのは、局長ではなく課長や係長以下の人たちです。局長は、部下が上げてきたプランを何も精査せずに了承するだけ。役人の幹部は、事業効率や安全性より、部下の提案にイチャモンをつけて仲間意識がギクシャクすることを恐れるのです。上司には従い、部下は信じる。だから部下のプランを信じ、それをそのまま上司である知事や副知事に上げる。これが本当の実態です」

じゃあ、誰に責任を取らせればいいの?

池田「最悪なことに、明治時代以降の日本では、何か大問題が起きても役人は誰ひとりとして責任を取りません。その代わり、何も知らずに了承してしまったトップ、つまり知事や市町村長、大臣などの政治家に責任を取らせて世間を納得させることが当たり前になっている」

今回のケースでは?

池田「豊洲新市場問題の真犯人は、当時『新市場整備部』に在籍していた全員ということになるでしょう。しかし全員の処分など不可能。おそらく、石原元都知事をバッシングさせて終わらせるのではないでしょうか。

これって、75年前にアメリカとの無謀な戦争に突入させたのは誰なのか、どれだけ議論を尽くしても結論が出ない問題と同じ構造なんです。顔の見えない役人たちが“みんなで”国家の方向性を決定し、失敗したら責任の所在をウヤムヤにしてしまう。この無責任体質を改めない限り、最終的に損をするのはわれわれ国民なのです」

●池田和隆(いけだ・かずたか)元農林水産大臣秘書官。1967年生まれ、熊本県出身。「農林族議員のドン」と呼ばれた故松岡利勝元農水大臣の秘書を16年間務め、国家権力や利権、国の意思決定の実態を内側から目撃し続けてきた知られざる重要人物。第1次安倍政権の崩壊も、実はこの男が震源地だったのだ!

(構成/菅沼 慶 撮影/本田雄士)