「もんじゅ廃炉の背景に、省益拡大を狙う経産省の蠢(うごめ)きがあることも知っておくべき」と指摘する古賀茂明氏 「もんじゅ廃炉の背景に、省益拡大を狙う経産省の蠢(うごめ)きがあることも知っておくべき」と指摘する古賀茂明氏

政府が廃炉を含めて見直しの方針を固めた高速増殖炉「もんじゅ」

これをきっかけに脱原発への動きを期待する声もあるが、『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は、「そう甘くはない」と原子力ムラの新たな画策を懸念する。

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原子力発電所から排出される使用済み核燃料を再処理して、再び原子力発電の燃料としてリサイクルすることを「核燃料サイクル」という。

そのうち第1段階が、使用済み核燃料を「再処理」して新たな燃料を作る工程だ。その施設は青森県六ヶ所村にあるが、技術的困難さもあって、いまだに本格稼働の見通しが立たない。

そして第2段階では、新たに作った燃料で発電する。その際、消費した量以上の燃料を生み出すことができる“夢の”高速増殖炉が「もんじゅ」だ。

これまで政府は、一貫してこのふたつのプロジェクトを「核燃料サイクル政策」として、強力に推進してきた。しかし、政府は9月21日、もんじゅ廃炉の方針を固めた。

国はこれまで、もんじゅに1兆円以上もの巨費をつぎ込んできた。しかし、相次ぐ冷却材のナトリウム漏れ事故などによって、この高速増殖炉は過去22年間に250日間しか運転されていない。

しかも、もんじゅを運営する原子力研究開発機構は、大規模な安全点検漏れなど度重なる不祥事で、原子力規制委員会から運営主体として不適格と見なされている。

また、もんじゅは運転しなくても、設備維持に年間200億円ものコストがかかる。放置すれば、さらに巨額の国費投入が必要となるだけに、廃炉決定は当然だ。

これで核燃料サイクル政策と縁が切れれば、脱原発が進むかもしれない。すでに国内の原発は燃料プールの70%が使用済み核燃料で埋まっている。それを再処理する工場が稼働していない以上、いずれ“核のゴミ”が定量をオーバーし、原発は運転中止にならざるをえなくなる。

「第二のもんじゅ」になるリスクが極めて高い「アストリッド」

だが、そう甘くない。原子力ムラはなんとしてでも「核燃料サイクル政策」を死守しようと、もんじゅに代わる新しい高速増殖炉の導入を画策している。それがフランスと日本が共同開発を進める「アストリッド」だ。

アストリッドは半減期(放射性物質の放射線を出す能力が半減するまでの期間)の短い核燃料を作れることが売りで、2025年の完成を目指している。歴代内閣がためらってきたもんじゅの廃炉に安倍政権が踏み切ることができたのは、このアストリッドがあるからだ。

もう一点、もんじゅ廃炉の背景に、省益拡大を狙う経産省の蠢(うごめ)きがあることも知っておくべきだ。もんじゅの所管は文科省なのだが、アストリッドは経産省が所管する。経産省にしてみれば、文科省の影響を弱め、経産官僚が国の核燃料サイクル政策を差配することを意味するのだ。

官邸は資源エネルギー庁次長などを歴任した今井尚哉(たかや)首相秘書官ら、経産官僚が仕切っている。もんじゅ廃炉の最終決定を12月にして、「安倍政権が歴史的決断を下した」とすれば、次の選挙の有力な宣伝材料になりますよ、とアドバイスして首相をその気にさせたのだろう。

ただ、核燃料サイクルは未完成の技術で、アストリッドも実用化の確証はない。アストリッドが「第二のもんじゅ」になるリスクは極めて高いという見方もある。なんのことはない。結局は、再び巨額の税金が浪費されることになるということなのだ。

●古賀茂明(こが・しげあき) 1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。近著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)