『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンがドナルド・トランプを支持し、差別を煽(あお)るコラムニスト、マイロ・ヤノポロスについて語る。
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“The Dangerous Faggot Tour(危険なオカマ野郎ツアー)”ーー。
こんな奇妙な看板を掲げ、アメリカ各地を演説行脚する人物が最近、注目を集めています。
名前はマイロ・ヤノポロス。端正な顔立ちと整ったヘアスタイル、ハイファッションに身を包む31歳のイギリス出身ジャーナリストは、口を開けばミソジニー(女性蔑視)、人種差別のオンパレード。多様な社会ではあらゆる人に配慮すべきだというポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)の考え方に真っ向から異を唱え、雄弁に差別を語るゲイの論客は、共和党大統領候補ドナルド・トランプを支持するインターネット発の極右ムーブメント「Alt-right(オルトライト)」のスターとして一部の白人若年層を熱狂させています。
彼の名が知られ始めたのは、約2年前のいわゆる「ゲーマーゲート事件」。ゲーム内における女性差別の風潮を批判した女性ゲーム開発者や女性批評家が、男性ゲーマーから徹底的に糾弾され、個人情報をネット上にさらされる事態に発展した騒動です。このとき多くのネットユーザーを煽(あお)り立て、炎上劇を拡大させたのがマイロでした。
マイロは今年7月にも、映画『ゴーストバスターズ』最新作に主演した黒人女優への誹謗(ひぼう)中傷を扇動し、ツイッターを使用禁止になる事件を起こしました。彼は集団行動に快楽原則を与え、炎上案件に油を注ぐことで知名度を上げてきたのです。この稀代の“煽り屋”は今や右派ネットメディア「ブライトバート・ニュース」のテックライターとして、トランプと共闘するに至りました。
マイロを熱狂的に支持する層は白人の大学生
マイロは頭の回転が速く、とにかく弁が立ちます。黒人差別を口にする一方で、「差別はしない。僕がセックスする相手は黒人の男ばかりだ」と言い、民族差別をしつつも「自分の祖父はユダヤ系。ネオナチは僕を殺したいだろうね」と笑う。ゲイ、ユダヤ系という自らの「被差別属性」をチラつかせ、弱みをさらけ出しながら別の差別をたきつけるーー。いうなれば“模範的マイノリティ”として、人々の差別意識にある種の正当性を与えるのです。
彼を熱狂的に支持する層は白人の大学生だといわれます。では、彼らは単なるバカな差別主義者なのかといえば、必ずしもそうとは言い切れません。例えば、あるテレビ番組で女性司会者に「憲法の理念をねじ曲げ、女性や非白人の人権を軽視している」と問い詰められた際、マイロはこう切り返しています。
「私は憲法で認められている表現の自由を守っているだけ。なぜ、フェミニズムや有色人種に対しては憲法の適用範囲が違うんですか?」
詭弁(きべん)であるとはいえ、その言葉には一定の真理も含まれている。行きすぎたポリコレにうんざりする多感な若者たちは、そこに揺さぶられるのでしょう。地頭はいいけれど社会経験が少ない若者が、コロッとカルトに入信してしまうようなものです。
公民権運動やフェミニズム運動などで苦しみながらも多様な社会を実現してきたアメリカで、反動的に生まれたモンスターがマイロです。「ありのままで」ヘイトを口にする解放感に熱狂する若者たちは、その先に多様性の否定という“民主主義の終わり”しかないことをいつか理解するのでしょうか。
●Morley Robertson(モーリー・ロバートソン) 1963年生まれ、米ニューヨーク出身。国際ジャーナリスト、ミュージシャン、ラジオDJなど多方面で活躍。フジテレビ系報道番組『ユアタイム~あなたの時間~』(月~金曜深夜)にニュースコンシェルジュとしてレギュラー出演中!! ほかにレギュラーは『NEWSザップ!』(BSスカパー!)、『モーリー・ロバートソン チャンネル』(ニコ生)、『MorleyRobertson Show』(block.fm)など