銀行の住宅ローン貸出額の増加により、活気づいているかに見える不動産市場。
しかし、『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は、「その足元は危うい」と警鐘を鳴らす。
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頭金ゼロでウン億円の不動産資産を作ろう――このところ、こんなキャッチコピーで、アパート経営などの不動産投資を勧める広告宣伝をよく目にする。
日銀のマイナス金利政策で運用難に陥ったマネーが不動産市場に流入している。
このため、マイナス金利がスタートした今年2月から新設住宅着工が貸家を中心に急激に伸び始め、ここ3年間、80万から90万戸台で推移してきた着工数が、この6月には100万戸(年率換算)を超えた。
マイナス金利で利ざやを稼げなくなった銀行もここがチャンスとばかりに住宅ローンを増やして収益確保に動いている。冒頭に紹介した広告のキャッチコピーのように、頭金ゼロの融資希望客にも気前よく、不動産購入に必要な資金を全額貸し付けるケースが増えているのだ。
その表れが銀行の不動産向け融資残高である。日銀によると、今年4月から6月期の貸出額は前年同期比22・0%増の3兆1271億円に達し、バブル絶頂期の1989年に記録した4月から6月期のピーク(2兆7679億円)を27年ぶりに更新。その主な貸出先がアパートやワンルームマンションなど賃貸向け不動産であることは言うまでもない。
このように、不動産市場は活気づいているように見える。だが、その足元は危うい。
例えば、REIT(不動産投資信託)市場では、海外投資家の9ヵ月連続売り越しという現象が起きている。東京五輪を当て込んで、せっせと日本の不動産に投資してきた海外勢が一転、売りに転じているのだ。これは海外投機筋が「日本の不動産価格は高くなりすぎた」と判断している証拠だ。
心配なのは30代、40代の若い大家
投資用賃貸アパートが増えすぎて、高止まりしていた首都圏の家賃相場がジリジリと下がり始めたのも不気味だ。総務省のデータによれば、今年8月の東京都の家賃は前年同月比マイナス0.4%。次々と新しいアパート物件が登場するなか、居住者にとどまってほしい大家が家賃を引き下げているのだろう。
はっきり言おう。今の不動産市場の活況は、アベノミクスと日銀の金融緩和が生んだバブルだ。
人口減少が進むなか、いつまでも不動産価格が上がり続けるはずがない。全国の空き家数は約800万戸にも上るが、冷静に考えれば、賃貸アパートのニーズは将来的に小さくなるはず。
なのに、日本人の不動産投資熱は衰えない。マイナス金利が実需なき不動産投資を呼び起こし、節税目的で賃貸住宅を建設する個人への融資も増えている。その結果、すでにアパートがだぶつき始める地域も出てきた。
心配なのは30代、40代の若い大家だ。銀行が「頭金ゼロ」の融資に踏み切った結果、資産を持たない人々がアパートのオーナーになってしまっている。
不動産バブルがはじけて、想定していた家賃収入が入らなければ、ローン返済はおぼつかない。物件を売却して返済しようとしても、不動産価格が下落すれば完済は難しい。どう転んでも大きな借金を抱え込まざるをえず、最悪、自己破産だ。
「タダより高いものはない」というが、今の不動産投資はその言葉がピッタリ当てはまる。
●古賀茂明(こが・しげあき) 1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元幹部官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して2011年退官。著書『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーに。近著に『国家の暴走』(角川oneテーマ21)