米大統領選で、ドナルド・トランプの集会を取材する市川紗椰

『週刊プレイボーイ』本誌で連載中の「ライクの森」――。

報道情報番組『ユアタイム~あなたの時間~』(フジテレビ系)ではメインMCを務める人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。

今回は、幼い頃からアメリカで育った彼女が、アメリカ人の心をつかんだ「トランプ現象」について考察する!

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今回はゆるいノリを封印して、米大統領選について語りたいと思います。

私は『ユアタイム』の特派員として、約1週間アメリカに滞在し、ヒラリー陣営を中心に取材をしました。どこかの週刊誌では「『勝つ候補を取材したい』と、市川紗椰がヒラリー陣営を取材したがった」と根も葉もないことが書かれていましたが、もともと「トランプが勝っちゃうんじゃないの?」と思っていた私は、むしろトランプ陣営を取材したかったんです。

というのも、今回はトランプの勢いより“民主党の崩れ”が目立っていたからです。ヒラリーの集会には、ロックバンドのボン・ジョヴィ、バスケのスター選手のレブロン・ジェームズなどそうそうたるゲストが呼ばれていたんですが、みんな「呼ばれたから来ました」っていう感じで、現地は明らかに盛り上がっていませんでした。

一方、中央政界で優遇されてきたヒラリーに挑むトランプという構図が、トランプ支持者を熱くした面もあります。英語で「enthusiasm gap(熱意の差)」といわれる現象が、トランプに有利に働いたんです。

アメリカ人は、とにかく「Status Quo」を嫌います。日本語で「現状」とか「そのままの状態」を表す言葉で、今のアメリカを変えようと訴えるトランプが、アメリカ人の目には「Status Quo」を壊す魅力的なアウトサイダーに見えたんでしょうね。

ちなみに、よく日本の友達から「トランプの髪型って気にならない?」と聞かれますが、アメリカで育った私にとって、トランプは物心ついた頃から「テレビでよく見るおじさん」。ヅラ疑惑についても、20年前からさんざんいじられてました(笑)。

同じくヅラ疑惑のあったWWEのビンス・マクマホンとリング上で髪切りデスマッチを繰り広げたこともあります。集会で華々しくテーマ曲を流して入場するトランプを見ていると、完全にプロレスの見せ方をしていますよね。

アメリカ国民の税に対する怒りはものすごい

私は、差別主義的な発言をしてきたトランプが許せないんですが、「俺は白人のために頑張る」という彼の主張が多くのアメリカ人の心をつかんだのもうなずけます。いわゆる「political correctness(政治的正しさ)」がいきすぎてしまったアメリカでは、多様性を認めることや、弱者・マイノリティの優遇こそよしとされますが、今でもアメリカの人口の70%近くは白人。「トランプは俺たちのために頑張ってくれるんだ」と思った白人が彼を支持したのも不思議ではありません。

さらに、今回は移民のタクシー運転手などもトランプに票を入れているようでした。その心理的要因は“お金”にあると思います。日本とは違い、アメリカでは全国民が自分で確定申告をします。だから、税に対する怒りってものすごいんです。

トランプが自分の“節税”をヒラリーにツッコまれたとき、「俺は賢いのさ」とジョークを飛ばしましたが、多くのアメリカ人はトランプの態度をさほど責めるほどのものではないと感じたのではないでしょうか。「努力した者、賢い者が金持ちになる」という考え方がアメリカでは根強いんですね。

一回では語りきれませんが、トランプの今後の政策にも注目していきたいです。

●市川紗椰(いちかわ・さや)1987年2月14日生まれ。アメリカと日本のハーフ。モデルとして活動するほか、報道情報番組『ユアタイム~あなたの時間~』(フジテレビ系)ではメインMCを務める。2007年に行なわれた髪切りデスマッチでは、勝利したトランプが自らビンスの頭にバリカンを入れた